エストニアで同性婚法案の議決を後押しした話題作「完璧なタイミングだった」 – 写真・園山友基(トム・プライヤー、オレグ・ザゴロドニー) | ananweb – マガジンハウス

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2021年にエストニアで初めて一般劇場公開されたLGBTQ映画として大反響を巻き起こした映画『Firebirdファイアバード』。公開の2年後に同国で同性婚法案が議決された際には、実話を基にした本作が大きな後押しになったとも言われています。そこで、日本で公開を迎えたばかりの話題作について、こちらの方々にお話をうかがってきました。

トム・プライヤーさん & オレグ・ザゴロドニーさん

【映画、ときどき私】 vol. 636

ソ連占領下にあったエストニアの基地を舞台に、運命の出会いを果たした2人の男性によるピュアな愛の物語を描いている本作。『キングスマン:シークレットサービス』などに出演し、イギリス映画界でも注目を集めている俳優トムさん(写真・左)は主演と共同脚本を務め、主人公となる二等兵のセルゲイを演じています。

対するパイロット将校のロマン役にキャスティングされたのは、ウクライナ・キーウ出身の俳優オレグさん(右)。今回は国外渡航が困難な状況にもかかわらず、日本の観客へ直接思いを伝えるために念願の初来日を果たしました。本作の魅力や現在の心境、そして日本との関わりなどについて語っていただきました。

男性同士の愛情をこんなにリアルに描いた作品は少ない

―これまでも許されない状況下での同性愛を描いた映画はありましたが、主演だけでなく共同脚本も担当されたトムさんにとってほかの作品にはない魅力を感じた部分があったのでしょうか。

トムさん 最初にペーテル・レバネ監督から主演をしてほしいとアプローチをいただいたとき、男性同士の愛情をこんなにもリアルに描いている作品はあまり観たことがないと感じました。なかでも驚いたのは、厳しい軍隊を背景にしているにもかかわらず、これほどまでにセンシティブに描いていることです。

今回は共同脚本としても入ることにしたので、スケール感やサスペンス感というのは、監督と2人で話し合っていくなかでいろいろと練り上げていきました。

愛そのものが持つ普遍性を描いていると感じた

―オレグさんもチャレンジングな役どころだったと思いますが、出演の決め手があれば教えてください。

オレグさん 僕が興味を持った理由は、愛情を特別なものとして描くのではなく、愛そのものが持つ普遍性を描いていると感じたからです。そして、俳優として面白いと思ったのは、普段は規律正しく生きているパイロットが持つ別の一面を演じられること。僕も少年時代はみんなと同じように、ああいう風になりたいなと憧れていたので、ヒーロー的存在のキャラクターを演じられることはうれしかったです。

あとは、子どもの頃に話として聞いていたソ連の支配下にある国がどういう状況だったのかを探ってみたいという気持ちもありました。

実際のセルゲイは、太陽のような存在感の人

―トムさんは本作のモデルであり原作者でもあるセルゲイ・フェティソフさんには生前何度もインタビューをされたそうですが、印象に残っていることはありますか?

トムさん まず彼から繰り返し念を押されたのは、「政治的なことではなく愛についての映画にしてほしい」ということでした。同性愛が迫害されていた時代が背景にはあるものの、愛を中心に描いた作品にしたい思いが強かったようです。

それから印象的だったのは、彼の太陽のような存在感。光がさしているかのようなたたずまいには心を打たれたので、そのあたりは演じる際に意識しました。こういう作品だと俳優はメランコリーたっぷりに演じたがるものですが、彼自身がそういう人ではないんですよね。悲しい瞬間は多くても、彼の持つ軽やかさや希望を失わない姿、そしていろんな制限を飛び越える強さを体現している様には大きな影響を受けました。

完璧なタイミングで作られた映画だと思う

―そういったセルゲイさんの思いが投影された本作は、エストニアで大ヒットとなり、同性婚が承認される大きなきっかけにもなったそうですが、一つの国の歴史を変えてしまうほどの作品になったというのは本当にすごいことです。

オレグさん この映画は、本当に完璧なタイミングで作られたのではないでしょうか。これは僕が出演していた別の舞台であったセリフですが、「あなたが政治を作らなければ、政治があなたを作ってしまう」という言葉がまさに今回の作品にも通じていると痛感しました。

良くも悪くも我々は政治によって作られてしまうものなので、同性愛であれナショナリティであれ何であれ、そこに制限が設けられる場合は、自由を求めて戦うべきだと考えています。この作品が問いかけているのは、自分がありのままでいられるかどうかについて。僕自身もロシアとウクライナがこういう情勢になってからは、そういったことを肌で感じています。

特にいまの僕たちは、ウクライナ人なのに「あなたはウクライナ人ではありません」と言われているような状況にいるので、現在のウクライナで起きていることはまさに彼らと同じかなと。それくらい自分のアイデンティティのままで生きることができないのです。本作では自分が自分であることの大切さを政治が許さないがゆえの悲劇を描いているので、そういう意味でも「完璧なタイミングだった」と言えると思います。

この作品が受容の心に繋がってほしい

―日本はまだ同性婚を認めていない国ですが、そういう場所で本作が上映されることにも意義を感じていらっしゃるのではないでしょうか。

トムさん そうですね。この作品を通して、「物事をもう少し変えてもいいんじゃないか」という受容の心に繋がればいいなと思っています。ここで描いているのは、同性愛というよりも、魂と魂が愛し合う姿です。

男性でも女性でも、どういう立場の人でも、誰もが本物の愛を探し求めて生きているので、そういう普遍性を感じていただけたらと。もし日本に暮らしているかたのなかで、周りから認められなくて苦しい思いをしているかたがいるのであれば、そういった思いが伝わることを願っています。

―私は以前ウクライナを訪れたことがあり、いろんな文化の違いに興味を持ちましたが、ウクライナのかたが寿司職人の格好をしている姿を見て驚かされたこともありました。今回が初来日となったオレグさんから見て、日本はどのように見えていますか?

オレグさん 僕にとっては、日本はまったくの異世界ですね。でも、おそらくウクライナ人は世界でも日本人の次にお寿司を食べている国じゃないかなと思っていますよ(笑)。実際、僕も週に2回かそれ以上は食べていますから! 「遠く離れた国なのにどうしてそんなに人気なの?」と思うかもしれませんが、僕たちは生活のなかに日本の影響をあちこちに感じています。

まず、日本と言えばテクノロジーが進んでいる現代的なイメージなので、ウクライナでも「1台目のテレビはやっぱりソニーかパナソニックだよね」みたいな話がよくありました。あと、僕はオニツカタイガーのスニーカーが大好きで海外でもいつも買っていますし、ジーンズも日本製、乗っている車もSUBARU。日本の物が大好きなので、今回ようやく来ることができてワクワクしています。

自分のままでいられる居場所には喜んで行ってほしい

―トムさんは3度目の来日ということですが、日本の好きなところなどがあればお聞かせください。

トムさん 僕が日本に関していつもすごいなと思うのは、細部へのこだわり。料理の出し方にしても、ものづくりにしても、言語にしても、とても繊細で精緻を極めていると感じています。あとは、日本人のみなさんの人当たりがとてもソフトですごくいいですよね。普通、都市部に行くとガヤガヤうるさいものですが、日本は静かで平和だなと思います。

それから僕もオレグと同じでお寿司は大好き。アジアの料理が好きなので、いつもだいたい日本料理かタイ料理を食べています。

―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。

トムさん もしかしたらみなさんは、正しい答えをいつも探していたり、究極の愛を追い求めたりしているかもしれません。でも、そういうものを手にできなかったとしても、すでにあなたは完成した存在なのです。これは僕の世界観でもありますが、自分の外から入ってくるものはあくまでもボーナス。だから、わざわざ探しに行かなくても、あなた自身は必要なものをすでに持っているんだよ、というのを伝えたいです。

オレグさん 僕が言いたいのは、自分自身であること、そして自由であることが何よりも大事だということです。もし自分がありのままでいられる相手や国が見つかったのであれば、喜んでその居場所に行ってください。

インタビューを終えてみて…。

撮影中は和気あいあいと楽しそうにしていたトムさんとオレグさん。インタビューが始まると、ひと言ひと言を丁寧に話されており、真摯な姿にこの作品に対する思いが伝わってきました。普段のカジュアルなスタイルも素敵でしたが、劇中で軍服をピシッと着こなす凛々しい姿にも注目してみてください。

愛の重さに突き動かされる

人と人が出会い、純粋に愛し合う姿に心を揺さぶれる本作。ありのままでいることの大切さと愛の美しさを感じさせてくれる珠玉のラブストーリーです。


写真・園山友基(トム・プライヤー、オレグ・ザゴロドニー) 取材、文・志村昌美

ストーリー

1970年代後期、ソ連占領下のエストニアで役者になることを夢見る若き二等兵セルゲイは、兵役を終える日を迎えようとしていた。そんなある日、同じ基地に配属されてきたのはパイロット将校ロマン。セルゲイはロマンの謎めいた雰囲気に一瞬で心奪われ、ロマンもセルゲイと目が合った瞬間から体に閃光が走るのを感じていた。

写真という共通の趣味を持つ2人。友情が愛情へと変わるのに多くの時間を必要なかった。ところが、当時のソビエトで同性愛はタブーであり、発覚すれば厳罰に処されてしまう。そんななか、セルゲイとロマンの関係を怪しむスベレフ大佐は、2人の身辺調査を始めることに…。

引き込まれる予告編はこちら!

作品情報

『Firebirdファイアバード』
新宿ピカデリー、なんばパークスシネマほかにて全国公開中
配給:リアリーライクフィルムズ

(C)FIREBIRD PRODUCTION LIMITED MMXXI. ALL RIGHTS RESERVED / ReallyLikeFilms

写真・園山友基(トム・プライヤー、オレグ・ザゴロドニー)

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