December 7, 2022 | Culture, Art, Design | 名作絵本図書館
テーマ&ジャンル別に名作絵本をセレクトしました。雨に海に森…人間の力の及ばない自然界が子供の感性を刺激し、情緒を育てます。

幼少期は自然に触れることがとても大事です。見て、聞いて、嗅いで、歩いて、触って…自然を体感することで、命がこの世界と出会っていくのです。大人にとっては鬱陶しい雨も、子供にとっては楽しい水の日。海や森は、子供にとっては果てしない広さ。大きな海の青に圧倒され、鬱蒼とした森の深さに恐怖心や冒険心を抱く…。子供たちを惹きつける自然界の魅力を伝える絵本をご紹介します。
■ 雨から始まる5冊。
『かさ』モノクロームに浮かぶ赤い傘。

暮らしに根差した素朴な絵本や童話の挿絵で人気の高い、太田大八の代表作。赤い傘の女の子が駅までお父さんを迎えに出かける。ドーナツ店や人形のショーウィンドーで足を止め、歩道橋を渡る小さな赤い傘。大人たちの黒い雨傘の中に映える赤い傘のアイデアは、作者がレオ・レオニの『あおくんときいろちゃん』を読み、そのシンプルな色の組み合わせに影響を受けたものなのだとか。
『雨、あめ』雨の中、お散歩に出かけよう!

アムステルダム出身のイラストレーター、ピーター・スピアーの作品の中でも特に人気の高い一冊。子供たちの日常を徹底した観察眼で細部まで丁寧に描くのが彼の作品の特徴だが、本作ではカッパを着て雨の中を闊歩する姉弟の姿をのびのびと描く。夜半すぎまで降り続いた雨は夜明けにやむ。ラスト、朝露にぬれた明るい庭をのぞきこむ姉弟の姿が、雨上がりの気持ちいい余韻を残す。
『あめが ふるとき ちょうちょうは どこへ』雨降る詩情を描く美しい傑作絵本。

「あめ, あめ, あめ, あめ。あめが ふるとき, ちょうちょうは, どこへ いくのかしら。」そんな詩的な問いかけから始まる雨絵本の名作。メイ・ゲアリックのポエジーなテキストに、しとしとと降る雨の情景を繊細に描いたのは、レナード・ワイスガード。マーガレット・ワイズ・ブラウンとの共著を多く持つ、名絵本画家のひとりだ。青いインクが雨の日の物悲しさや静かさを穏やかに表現する。
『ある げつようびの あさ』憂鬱な月曜日の朝の雨に何を想う?

ユリ・シュルヴィッツの雨の絵本といえば『あめのひ』が有名だが、退屈な月曜日に窓の外の雨曇りを眺めながら空想の羽根を広げる『ある げつようびの あさ』も秀逸。ある月曜日の朝、傘をさして王様と女王様と王子様が、僕に会いにやってくるが…。何度も何度も同じ場面が繰り返される物語の構成は、谷川俊太郎によるテンポのある訳で実に小気味よく、楽しく読むことができる。
『あめの ひの おるすばん』岩崎ちひろが描く、静かな雨の日。

ある雨の日、家で母を待ち留守番をするひとりの少女。ひとりきりが心細く、不安な少女のモノローグで、お話は静かにゆっくりと進む。心の機微を捉え、言葉ではなく多数の色が重なり、にじみ、広がる、鮮やかな水彩画で表現した、岩崎ちひろの代表作のひとつだ。少女は、雨だれの音に耳を傾け、雨にぬれた窓に落書きをしてみる。直接的に雨を描かずとも、雨の日の情感を見事に映し出している
『つみきのいえ』海の深くで見つける愛情と思い出。

アヌシー国際アニメ映画祭で最高賞を受賞した短編アニメ『つみきのいえ』を、監督と脚本家が絵本にリメイク。海に沈んでいく町で、たった一人で暮らすおじいさんは、忘れ物を取りに海深くへ潜っていく…。海の深さが時間の蓄積のようで、愛した人や生きた証を積み重ねて今があることを考えさせられる。寂しいけど悲しくはない。心温まる、まさに大人のための絵本。
『なみ』躍動的に描かれた波の描写に感動!

波とたわむれる、ひとりの少女。モノクロームの世界に躍動感のある青い波のうねりや水しぶきが見事に描かれた美しい絵本。作者は、韓国人絵本作家のスージー・リー。本作は発表されるや、『ニューヨークタイムズ』で2008年度のベスト絵本に選ばれるなど、世界中で大きな話題を集めた。左ページの少女と右ページの波。その鮮やかな対比や巧みな構成力に思わず感服してしまう。
■ 神秘的で楽しい森の本5冊。
『木はいいなあ』木と暮らす楽しさを素直に伝える。

一本しかなくても、たくさんあって森になっても、夏でも秋でも、猫にも子供にも、木はいいなあ。アメリカで初版が発行されたのは1956年。都会化が進むにつれて、自然から遠ざかる子供たち。木がある生活の素晴らしさを伝えたいという作者の願いは、子供らしい真っすぐな言葉とマーク・シーモントの伸びやかな水彩画によってぬくもりある絵本となり、今も大切に読み継がれている。
『三びきのやぎのがらがらどん』大胆な絵が楽しい、北欧の昔話絵本。

三びきのやぎの名前はどれも「がらがらどん」。そんなばかな! と出だしで心をわしづかみに。ベースはノルウェーに伝わる昔話。不気味で怖いトロルとの対決は、日本の昔話にも通じるところがある。ギラギラと生命力あふれるマーシャ・ブラウンの絵、やや乱暴なセリフとストーリー、ユニークな擬音が光る名訳は、発行当初から大きく時代が変わった今でも、子供たちを夢中にする。
『もりのなか』森の中で出会う不思議な動物たち。

主人公のぼくは紙の帽子をかぶり、新しいラッパを持って森へと散歩に出かける。そこでさまざまな動物たちと出会い…。アメリカ出身の絵本作家マリー・ホール・エッツの初期代表作のひとつ。黒コンテを使い柔らかなタッチで表現された幻想的な森が印象的。行列をして歩く動物たちも愛らしい。静かで真っ暗な森、その奥行きが子供たちの想像力を豊かにする。続編に『またもりへ』がある。
『きりのなかのはりねずみ』幻想的な世界に吸い込まれそうな一冊。

世界中の映像作家に影響を与えたロシアのアニメーション作家、ユーリー・ノルシュテイン。その代表作『霧の中のはりねずみ』をもとに作られた絵本。夜の森、濃い霧、星の淡い光が絶妙に表現された幻想的な絵は、アニメ作品でも美術監督を務めたヤールブソワによるもの。感受性豊かでおっとりしたはりねずみ、大雑把なみみずく、マイペースなこぐまなど、キャラクターも魅力的。
『てぶくろ』どんどん膨らむてぶくろにハラハラ。

薄暗く雪が降りしきる森の中に、おじいさんが落としたてぶくろがぽつん。そこへ次々と動物たちがやってきて…。さすがに入らないだろうと思ってしまう大きな動物さえ何とか入ってしまう、いかにも絵本らしい物語。仲間が増えるにつれ、煙突ができ、ベルが付き、窓もできて家らしくなっていくてぶくろや、各キャラクターの個性的な衣装とキャッチコピーにも注目したい。