【インテリアブランド名鑑】北欧デザインの傑作を発表し続ける〈フリッツ・ハンセン〉の現在。

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January 30, 2023 | Design | casabrutus.com

歴史ある世界のインテリアブランドが今、どんな視座に立って製品を開発、発表を行っているのか、ブランドの旗艦店を訪ね、デザインジャーナリストの土田貴宏がひもときます。

アルネ・ヤコブセンが1955年にデザインした《セブンチェア》。旗艦店の〈フリッツ・ハンセン東京〉は、その全色、全素材を常時揃えている。

デンマークの〈フリッツ・ハンセン〉は、アルネ・ヤコブセンやポール・ケアホルムの家具をはじめ北欧デザインの傑作を取り揃える。さらに、それらと並ぶ新しいマスターピースの創造にも取り組み、次の流れを作り出そうとしている。

コペンハーゲンのSASロイヤルホテルのためにヤコブセンがデザインした《エッグチェア》。これは〈フリッツ・ハンセン〉150周年のアニバーサリーモデル(1,025,200円)。

〈フリッツ・ハンセン〉は、キャビネット職人のフリッツ・ハンセンが1872年にデンマークで創業。当時の北欧家具は木工職人の手作りが主流であり、このブランドのルーツもそこにある。しかし20世紀に入ってからは、フリッツの息子のクリスチャンが曲木、成形合板、金属加工といった工業的な家具作りにも可能性を見出していく。たとえば1930年代、デンマーク初のスチール家具は〈フリッツ・ハンセン〉が発表した。

また当時からコーア・クリント、ハンス・J・ウェグナー、ボーエ・モーエンセンはじめ気鋭のデザイナーとも協業している。20世紀半ばから建築家のアルネ・ヤコブセンとともに生み出した名作椅子の数々も、こうした系譜に位置づけられる。

成形合板の曲線美が追求されたアームチェア《リリー》(107,800円〜)は、ヤコブセン設計のデンマーク国立銀行のために彼が1968年にデザインした。

1953年発表のヤコブセンの代表作《アリンコチェア》は、3次元成形した1枚の成形合板によって座面と背もたれを一体化した世界初の椅子とされる。これは当時としては、アメリカのイームズ夫妻が試みながら実現できなかったほど難易度の高い技術だった。2年後に完成した《セブンチェア》も構造は同様だが、曲面のシートはより広くダイナミックになり、座り心地を向上させている。

その後もヤコブセンは、コペンハーゲンの〈SASロイヤルホテル〉やイギリス・オックスフォードの〈セント・キャサリンズ・カレッジ〉など、彼が設計した建物のために椅子をデザインし、制作を〈フリッツ・ハンセン〉が行うのが通例だった。一連の家具は、デンマークデザインの黄金時代においてもひときわ革新的なものとして世界に広まっていった。

ポール・ケアホルムの《PK20》(1,273,800円〜)は、シートを支える前脚の弾力を生かしてデザインされた。

ポール・ケアホルムは、木工の修行を経てからデザインを学んだ経歴をもち、金属フレームの家具にも持ち前のクラフツマンシップを発揮した。1950年代から〈フリッツ・ハンセン〉と接点があった彼の家具コレクションの製造権が、このブランドに移ったのは80年代のこと。これを機にケアホルムの認知度は揺るぎないものになっていく。

さらに2000年以降の〈フリッツ・ハンセン〉は、デンマーク以外のデザイナーの起用も増えた。ただし、デザイナーのドローイングをもとに社内で試作を繰り返す開発手法は、20世紀の名作を生み出した頃と基本的に変わらない。これが、時代を超えてブランドの遺伝子が色濃く受け継がれる理由のひとつになっている。


マリー=ルイーズ・ホストボは、デンマーク王立芸術アカデミー修了後、建築事務所を経て〈ダンスク・ムーブルクンスト〉へ。現在、〈フリッツ・ハンセン〉のデザイン部門責任者としてコレクションのキュレーションと製品開発を統括する。写真の撮影や執筆も手がける。

2022年、〈フリッツ・ハンセン〉のデザイン部門責任者に就任したマリー=ルイーズ・ホストボは、建築やデザインの深い知識とともに、すぐれた審美眼をもつ人物だ。そのセンスに基づいて、これから新旧のコレクションがどんなふうに展開していくのか期待は高まる。

近年のデンマークは新しいデザイナーやブランドが次々に現れ、北欧らしさのアップデートが進む。一方、〈フリッツ・ハンセン〉のリーダーシップは150年前から着実に培われてきたもの。新しい歴史をつくる力が、このブランドにはあふれている。

〈フリッツ・ハンセン東京〉のインテリアは、本国デンマークのデザインチームによるもの。カーテン越しの自然光が空間に広がる。
バウハウスの教師だったクリスチャン・イデルの照明器具《カイザー・イデル》(145,200円)。
〈フリッツ・ハンセン東京〉の3階はワークスペース向けの家具を展示(予約制)。

〈フリッツ・ハンセン東京〉

東京都港区南青山2-27-14 TEL 03 3400 3107。11時~19時。無休。