〈マメ クロゴウチ〉初の旗艦店が表参道にオープン。

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February 7, 2023 | Fashion, Architecture | casabrutus.com

全ラインナップを揃える旗艦店を表参道の路地裏にオープンした〈マメ クロゴウチ〉。細部にまでこだわるブランドの精神性を空間全体で表現した経緯を、デザイナーの黒河内真衣子と空間デザインを担当した柳原照弘に聞いた。

オールシーズンで展開する黒一色の《マメ クロゴウチ ベーシックス》。新店舗では、そのフルラインナップが揃う。

フォルムの美しさと精妙なディテールに定評のある〈マメ クロゴウチ〉。表参道駅からわずか1分ほどの場所に1月19日にオープンした初の旗艦店は、羽根木にあった小さな直営店では見せられなかったスケールで同ブランドの世界観を空間から感じ取ることができる特別な場所だ。

「単に多くのラインナップが見られるだけでなく、モノとじっくりと対峙する体験が生まれる場所になってほしい気持ちがありました」(黒河内)

こう語るのは、デザイナーの黒河内真衣子。黒河内はすぐに、羽根木の店舗でも協働した柳原照弘に空間設計を依頼した。

「柳原さんは、率直に意見を重ね、繰り返し対話が続けられる存在。建築がまったくの素人の私でも、素材選びやディテールの見定めを一緒にできるのは嬉しかったです」(黒河内)

元はガレージだった場所は、エントランスポーチに。大磯で採取した砂利を混ぜた、表情豊かな左官で仕上げている。

新しい拠点として黒河内が選んだのは、表参道の裏路地にひっそりと立つクラシカルなビルの1〜2階。

「元は住居だった場所。周囲の環境との共存を大切に、〈マメ クロゴウチ〉らしい空間に仕上げることを考えました」(柳原)

エントランスの真正面には美しい花が生けられ、その背後の窓に植栽が映り込む。セッティングの鍵となったのは、黒河内のものづくりの原点にもなっている、長野の美しい風景だ。

ガラス窓越しに見えるのは華美な庭園ではなく、サザンカやヤマザクラといった身近な木々を植えた普通の裏庭。樹々の足元を切り取ったような開口を設けたことで、花が咲き誇る様子ではなく、はらはらと散る様子がうかがえるのも雰囲気がある。

都会の喧騒から一旦切り離されたこの場で呼吸を整えたら、左手に見える階段からコレクションが並ぶ上階へと足を進める。

直角の連続を繰り返しながら、奥へと続く2階通路は、エンドレスな空間のように見える。

階段のステップを一段ずつ進むにしたがって、徐々に見えてくる2階スペース。柔らかな繭のなかにいるような特別な雰囲気に思わず息を呑む。

「服が体をやさしく覆うように、建物が一体となって中に滞在する人を包み込む。そんな感覚を体現するために、床、壁、天井などの内部空間すべてを、手仕事の左官で仕上げました」(柳原)

柳原は左官職人の都倉達弥と協働し、沖縄の石灰岩に大分の竹を粉砕したチップを混ぜながら、独自の風合いの土を調合。エリアによって、チップの配合率や大きさを変えることで、位置や角度によって風合いが違って見え、ゆらぎの波に包まれているようにさえ感じる。

また、ハンガーラックやディスプレイの棚板、カウンターの引き出しや家具などの木部には、一千年単位の年月ものあいだ、地中に眠っていたという神代ケヤキの無垢材を使用。何世紀もかけてこの世に残り、掘り出された貴重な部材を用いることで、モノを大切に守り、引き継いでいく感覚を表したかったと柳原は語る。

職人、都倉達弥による左官仕上げ。土に混ぜた竹は安定性を保つために、敢えて新月の夜に伐採したものを使用するというこだわりよう。

ショップ内では、商品の見せ方も独特だ。巻貝をイメージしたという店内は、回廊のように巡らされた通路の片側だけにレールを配し、一定の間隔を保ちながら、コレクションを丁寧に陳列。左官の壁面の前に並ぶ作品をじっくりと一点ずつ眺める様子は、美術展で絵画を鑑賞する感覚にも似ている。

さらに、敢えてスペースの中央に大きめのフィッティングルームを配置。人気のバッグコレクションは、天井まで伸びる大きなガラスショーケースのなかに収めて、あらゆる角度から眺められるように工夫した。

「試着することでようやく服と人が一体になり、ショーケースの中のスタッフの動きも空間と混じり合って、さらに豊かな体験となる。コレクションを美しく見せるだけでなく、そこに人が絡み合ってこそようやく完成する場所になれば良いと思っています」(柳原)

空気感、味わい、所作。時間をかけてこそ伝わる物事の本質が、この空間のなかには漂っているように感じる。

〈Mame Kurogouchi Aoyama〉

東京都港区北青山3-8-3。13時〜20時。月〜水曜休。

黒河内真衣子

1985年長野県生まれ。2010年黒河内デザイン事務所を設立し、自身のブランド〈mame〉を発表。2014年毎日ファッション大賞新人賞、資生堂奨励賞を受賞。2018年に〈Mame Kurogouchi〉に改称し、パリコレクションに参加。2020年初のショップを東京・羽根木にオープンする。

柳原照弘

1976年生まれ。デザイナー。2002年自身のスタジオを設立。Arles(フランス)と神戸を拠点に、国やジャンルの境界を超えたプロジェクトを手がける。〈1616/ arita japan〉〈SKUNA〉など国内ブランドのディレクションのほか、クヴァドラ(デンマーク)、オフェクト(スウェーデン)、スカゲラック(デンマーク)といった海外メーカーとも協働。レストラン〈SOWER〉やホテル〈THE REIGN HOTEL KYOTO〉などの空間設計、アートディレクションも行う。