人工ミニ臓器「オルガノイド」で潰瘍が治る?【東京医科歯科大学教授岡本氏、水谷氏 その2】

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オルガノイドの腸上皮移植による単回完結型補充療法の開発を行った東京医科歯科大学消化器病分野教授の岡本隆一と、ヒト大腸幹細胞培養技術の確立の研究を行った水谷知裕。
堀江氏はオルガノイドを使った難病治療に成功した岡本氏と、幹細胞治療の研究を行っている水谷氏に、治療の全貌を聞いた。

細胞は5日ですべて入れ変わる

堀江 幹細胞って、すごく不思議ですよね?

岡本 どのへんが、一番不思議だと思われますか?

堀江 幹細胞ってなんでなかなか見つからず、潜んでいるんですか?

水谷 実は、幹細胞を探していた人は1950年代、1960年代からたくさんいたんです。ただその時代は、幹細胞は親玉なので動きが鈍いだろうという発想でした。例えば、放射性物質などを入れるとずっと残り続ける細胞が幹細胞だろうと考えられていたんです。なぜかというと、遺伝子を複製して子孫となる細胞を作る場合、コピーのコピーみたいに複製の回数が多くなると遺伝子変異が入る可能性が多くなります。それで、親玉はあまり動かないやつだろうと考えられていた時代がすごく長かった。しかし、腸の幹細胞が見つかるとその考え方が変わりました。

堀江 なぜですか?

水谷 例えば、腸の幹細胞は5日くらいですべて入れ替わるんですよ。

堀江 え、そんなに早いんですか?

水谷 幹細胞が新しい細胞を生み出して、それぞれの機能を持った細胞に分化して腸の表面まで行く。そして、5日後には全部の細胞が死んでしまうんです。

岡本 腸には「隠窩」というヘコミと「絨毛」という出っ張りがあって、ヘコミの一番下に幹細胞がいます。そして、そのヘコミから新しい細胞がどんどん生まれて絨毛に移動する。そして、死んでいく。それが5日くらいのサイクルなんです。

堀江 そういえば、ウンコってそのほとんどが大腸菌と腸の上皮細胞だっていいますもんね。

水谷 そうです。ですから、ICU(集中治療室)で寝たきりの状態で治療している人も便が出るんです。ちなみに、一番、サイクルの早いのが小腸で、2、3日です。

堀江 へー。

岡本 腸は環境の変化が激しい臓器なので、生体側もそれくらいどんどん細胞を新しくしていかないと対応できないんだと思います。

水谷 その速さで分裂しているとわかったのが2000年代です。

堀江 だから、小腸ってガン化しにくいんですかね。ガンになりにくい理由って、すごい早いサイクルで細胞が更新されているからじゃないですか?

水谷 そうですね。細胞に変異が入りにくいということは考えられます。また、多少変異が入っても、すぐに細胞が死んでしまうことも影響しているんじゃないでしょうか。

堀江 小腸と大腸って、どう違うんですか?

岡本 役割が大きく違います。小腸は吸収の主体が栄養だったり、微量元素だったりしますが、大腸の吸収の主体は水分です。

堀江 小腸はすごくガン化しにくいですけど、大腸はガン化しやすいじゃないですか。それは大腸の上皮の細胞の更新が遅いからですか?

岡本 更新が遅いのと、異常な細胞が出てきた時にそれを排除する免疫監視システムが小腸と大腸では少し違うということもあります。

堀江 どう違うんですか?

岡本 小腸には大腸にはない独特の免疫細胞がいて、上皮に異常があれば別の免疫担当細胞にその情報を伝えるということを常にやっているんです。その監視システムが、腫瘍ができにくい原因のひとつとして考えられています。

その3へ続く

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岡本隆一 (Ryuichi Okamoto)
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 消化器病態学分野 教授
1972年生まれ。東京都出身。医学博士。1996年、東京医科歯科大学卒業。2004年、東京医科歯科大学博士課程終了。その後、東京医科歯科大学准教授、特任教授などを経て現職に。

水谷知裕 (Tomohiro Mizutani)
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 消化器病態学分野 講師
1980年生まれ。三重県出身。医学博士。2005年、東京医科歯科大学卒業。2012年、東京医科歯科大学博士課程修了。その後、東京医科歯科大学助教などを経て現職に。