「コグノーメン」無限の可能性 多文化を吸収し続ける30歳がショーデビュー

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 大江マイケル仁の「コグノーメン(COGNOMEN)」は、2023-24年秋冬コレクションをブランド初となるランウエイショー形式で13日に発表した。会場は東京・秩父宮ラグビー場で、この日の天候は雨。最低気温5度の底冷えする会場に約700人のゲストを集め、約半数は大江デザイナーの母校である文化服装学園の生徒たちを招待した。中堅・ベテランの業界人から、ファッション界を志す若者までが集まるボーダーレスな空間は、同ブランドが目指すクリエイションを体現しているようだった。

 現在30歳の大江デザイナーは、15年に文化服装学院を卒業し、国内のコレクションブランドで商品企画を約6年務めた後、20年に「コグノーメン」を立ち上げた。「自分の力で認められたい」という固い決意で前所属先は非公表にし、ラテン語で“愛称”を意味するブランド名の通り「いつか愛称で呼んでもらえるようなブランドになりたい」という思いで作った、18型のコレクションでデビュー。クリエイションは、幼少期から中村俊輔に憧れて夢中になっていたサッカーの要素や、英国人の母親をもつルーツをブリティッシュ調のムードで表現するなど、大江デザイナーの人生そのものを投影しているのが特徴だ。

栄光のために戦う服

 3年目となる23-24年秋冬シーズンは、“Fight for your glory(己の栄光のために戦え)”がスローガン。ブランド立ち上げ以降、多文化を吸収しながら前進し続けてきたが、今シーズンは改めて自身の現在地を確認するかのように、英国やサッカーの要素をふんだんに盛り込む。平和のために戦う、老若男女のサッカーサポーターがキービジュアルだ。大江デザイナーは「壮大なテーマに向き合ってものづくりを続けるうちに、実際にモデルが着て歩くショーをやる構想が浮かんだ」と語る。

 バックステージにも、ブランドらしさは感じられた。衣装ラックを覆う布には、英語やポルトガル語、ナイジェリア語、ビジン語のグラフィティを手描きした。例え人目につかないところであっても、チームの士気を少しでも高めるために、労力を惜しみなく注いだ。「今回キャスティングしたモデル18人は、人種も年齢もさまざま。この多文化を象徴するようなものが作りたかった」。さらに、演出面でもボーダーレスにこだわる。リハーサルまでは一列に並んで歩くフィナーレの演出を、本番直前にモデルがランダムに交差するウオーキングに変更。固定観念にとらわれない「コグノーメン」らしい自由な雰囲気を表現するため、リハーサルは寒空の下で3回行われた。リハーサルが終わってモデルたちが控え室に戻る中、大江デザイナーはランウエイに1人残り、演出のため地面に水をまき始めた。誰よりも走り、考え、仲間を気遣う笑顔を見せる姿に、「こんなに泥臭いマイケルは初めて見た」と口にする関係者もいた。

 ショーが開幕すると、リアム・ギャラガー(Liam Gallagher)の伸びやかな歌声のBGMにのせて、捉えどころのない無国籍なウエアが連続する。サッカー色が強いといっても、ファンクショナルなそれとは異なり、ベースはあくまでワークやミリタリーをベースにしたストリートウエア。エンブレムや、ユニホームライクな太ストライプ、サッカーソックス、そしてキービジュアルのサポーターたちをジャカードにした“勝利のジャカード”など、サッカーをカルチャー要素に転換してスタイルになじませていく。最も分かりやすいのは、スローガン“FIGHT FOR”を刻んだサッカーマフラーのトップスやパンツだろう。さらに、デビューコレクションからモチーフとして使い続けたサッカーのエースナンバー“11”は、ショーピースのアウターに手描きしたり、11色の糸で編み上げたオリジナルのニットウエアにしたりと、ウエアの構成に浸透させる。反射する透明の糸を織り交ぜたニットウエアの輝きは、勝利の笑顔や涙の輝きを表現。激しいフリンジや表情豊かなニットウエア、ネオンカラーの差し色、イタリアのスーツ生地を用いたテーラリングなどこれまで培ってきたテクニックを生かしながら、異国情緒を東京らしいミックス感覚で融合させていく。デザイナーが愛する英バンド、オアシス(OASIS)の“Some Might Say”と共に迎えたフィナーレでは、名曲のスケールに劣らないたくましい世界観を多くのゲストの心に刻み込んだ。
 

広がる世界、30歳の可能性

 ショー後のデザイナーの表情は、達成感に満ちていた。コロナ禍という難しい時期に勇敢にデビューし、自己資金でショー開催に踏み切る“戦い”に挑んだからこそ、手に入れた歓喜だった。同ブランドの現在の卸先は国内11アカウントで、海外は韓国の1アカウントと、ビジネスのペースとして決して早くはない。クリエイション面でも「コグノーメン」の強みとなるスタイルが徐々に見え始めた、発展途上の段階である。ショーでの発表を続けていくためには、アイテムや型数のバリエーション、そして新しさがさらに必要だろう。しかし、今シーズンからパリ拠点の有力ショールーム、レインボー ウェーブ(Rainbow Wave)と海外セールスの契約を結び、1月のパリ・メンズ・ファッション・ウイーク期間中に初めて海外展示会を実施すると、パリや韓国、アメリカの3店舗での新規取り扱いが決まった。そして何よりの追い風は、世界への渡航制限がほぼなくなりつつあること。30歳のデザイナーはこれからも持ち前のバイタリティで世界中に足跡を残し、友人を作り、コミュニティを広げ、その歩んだ道すじは、クリエイションのエッセンスとしてコレクションに新しい色を加えていくだろう。世界との距離が再び近くなった今、多文化を吸収し続ける「コグノーメン」の無国籍な世界観がどこまで広がり続けるのか、正直なところ全く想像がつかない。それほどまでに、大江マイケル仁のストーリーには無限の可能性がある。

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