菅田将暉「役者が“職業”になりました」 転機となった『ミステリと言う勿れ』が映画化 | ananweb – マガジンハウス

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今年で、俳優デビュー14年。名だたる映画賞を総なめにし、数々のヒット作を生み出してきた菅田将暉さん。名実ともに日本のトップ俳優となった今も、真摯に作品と向き合い、自らのペースを崩さずに歩みを続ける彼の本音と、これからのお話をじっくり伺いました。

菅田将暉

日本のエンタメ界を牽引する唯一無二の俳優。
『仮面ライダー』シリーズで役者デビュー後、映画『共喰い』での高い演技力が注目を集める。その後は映画、ドラマで様々なジャンルの作品に精力的に出演し、役者としてはもちろん、彼の発する言葉やファッションは同世代に大きな影響を与える。人気ドラマを映画化した最新作、映画『ミステリと言う勿れ』は9月15日に公開。

――原作はもちろん、ドラマも大好評。『ミステリと言う勿れ』の映画化はまさに待望でした。菅田将暉さん演じる久能整(くのう・ととのう)は、ご自身にとってはどんな存在ですか。

すごく愛情深いです。ドラマが終わっても整くんは僕の中にいて、映画の撮影に入った時には、それこそもう“整って”いて。ドラマ制作時に作った引き出しが、いつでも開けられる状態でした。

――完成作を観た感想は?

この作品は、被害者側だけではなく加害者側にもちゃんとスポットが当たるところが他の事件ものとはちょっと違うところ。そんな特色がしっかり描かれつつ、密室での会話劇や、よう喋るな、という整くんの個性は際立っていたと思います。とはいえ撮影中は大変でした。伏線も多いし、言葉のチョイスも独特なので、集中してセリフをひとつひとつ残していく感覚で。頭を使うので、演じている時はいっぱいいっぱいでしたね。だからこそ、完成作を観て安心したし、大変だったことも面白かったな、って思えました。

――この作品の魅力は何でしょう。

やっぱり、雑談というコミュニケーション。人と喋る機会が減ってしまった時期を経て、面倒くさいぐらい喋ってくれる整くんを見るとなんとなく安心します。議論のシーンでも、正解を押し付けるわけでも、感情論で語るわけでもなく、淡々と喋り続けるスタイルも好きなところです。

――原作の2~4巻に掲載された通称“広島編”を描いた今作ですが、どんな思い入れがありますか。

まず、ドラマを撮影していた時はコロナ禍で大規模な地方ロケができなかったんです。だから広島ロケでようやく“キレイな画”がたくさん撮れて満足しています。原作の順番でいくと、ドラマの1話で放送した取調室での会話劇があって、そのあとにこの広島編になるので、僕としては広島編をやらないと次に進めない感じがしていたんですよね。ここで整くんの人物がしっかり描かれるので、ドラマを見ていなかった人でも入りやすいと思います。僕としても、整くんの面倒くさいところやポンコツぶり、可愛いところ含め、一人行動が好きだったり、一人でボソボソ喋ったり悩んだりする姿をやっと演じられたという気分です。

――特にこだわったシーンは?

監督と議論を重ねて、セリフを原作者の田村(由美)先生に調整していただいた部分もあります。例えば、原作では「女の幸せ」というセリフや“女”とつく諺がバーッと並ぶんですが、漫画で読むぶんには一つの例えに捉えられても、映像でセリフになるとすごく強く感じてしまう。特に、いつでも中立的な意見を持つ整くんの口から発せられると、違和感があって。整くんは、男でも女でもない、子供目線で喋ることを徹底していましたから。ジェンダーや政治、教育などの社会問題について、意見ではなくアイデアとして提案するのが整くんなので、そういうシーンは特に繊細に進めたのですが、それは映画に限らず、ドラマ制作時からそうでした。

――以前ラジオで“菅田将暉愛”を語ったことが話題になった、松下洸平さんも出演されていますね。

そういった話をしてもらったというのは、聞いていました(笑)。本格的な共演は初でしたが、松下さんのクランクイン時、ご自身の音楽活動の方のツアー中だったようで、最初のセリフを聞いた時に、「あ、歌う人の発声だ」と思ったのを覚えていて。めっちゃいい声でした。それと、僕はライブをする時はお芝居の仕事を入れられないので、「よく両方できますね」なんて話もして。明るくて話も面白いから、松下さんが現場に来られると、現場の温度が1~2°C上がったように感じるんですよね。

――後輩の萩原利久さんも、出演されています。以前、ananのインタビューで萩原さんは、菅田さんに憧れて同じ事務所に移籍したとおっしゃっていました。萩原さんを10代から見てきて、今作で進化や成長を感じましたか?

利久は、僕の大事な場面によくいるんです。2014年に『ロミオとジュリエット』という舞台を蜷川(幸雄)組でやった時からそう。まだ高校生で、出演者でもないのに「後輩の特権だ」と舞台稽古から毎日観に来ていて。その熱量も興味深かったし、『帝一の國』や『あゝ、荒野』『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』など、特に僕がギアを上げて臨んでいた現場では大体、利久も一緒で。僕が暴れ回った跡や取りこぼしたものを、回収してくれるような安心感がありました。でも、もうすっかり大人です。今回の撮影で驚いたのは、現場の待ち時間で共演者とのトークを利久が回していたこと。それまであまり話の輪の中心にいるのを見たことがなかったのに、“MC利久”として現場を温めてくれました(笑)。

――素晴らしいですね(笑)。

お芝居については、もう昔から達者なんで、別に後輩とも思っていなくて。この現場の最初の頃、直前まで撮影していた主演ドラマの役の癖とか残り香みたいなものを感じたんです。その時に、自分を変えてまでも挑まなければならない現場だったんだろうな、頑張ってるな、と感動しました。

何気ない日常の中でふと役者を感じる。

――今年30歳になり、役者デビューして14年に。今どんな“段階”にいると思いますか?

年齢的には30歳は一つの区切りになるかもしれませんが、個人的には数年前に一区切りついた感じ。『コントが始まる』や『鎌倉殿の13人』を経て、『百花』を終えたぐらいかな。もともとデビューして10年経ったあたりを、一区切りにしようと思っていたんです。

――その理由は?

20代は修業じゃないけど、とにかくがむしゃらにやろうって思っていて、それが終わったら…って感じかな。例えばゲームって、四天王を攻略するまではとにかくやり続けるじゃないですか。レベル上げしてないで寝ろよって思うんだけど、やっちゃう(笑)。で、四天王を倒したらまだ次はあるんだけど、一回寝て、リセットしようみたいな。それに似ています。実際はコロナ禍になったことで、少し計画が狂って。そんな時に『ミステリと言う勿れ』のドラマに出合って、よし、もう一回頑張ってみるか、って気合を入れ直しました。だから転機になった作品でもあるんです。

――一区切りしたところで得たものはありますか?

難しいけど…役者が“職業”にはなりました。(「au三太郎シリーズ」で)鬼ちゃんをやり始めたり、『民王』『溺れるナイフ』に出演した22歳あたりからお芝居を面白いと思うようになりましたが、10代の頃からそれまでは、役者で食べていくとかそういう意識はなかったから。もちろん、仕事があることほど幸せなことはないとは思ってはきましたけど。

――役者さんって、就職活動みたいな区切りがないですもんね。

そうなんですよ。でも“菅田将暉”という芸名で生きていくんだと、腹を決めた感じはします。

――ドラマ、映画、CMと出演し続けている様子を見て、勝手なイメージですが、もらった役や作品を淡々と演じ切る印象があって。

そうそう、合ってますよ。基本的に役者は素材なので、求められてなんぼだったりもするから。その中にも、この監督や脚本家とやりたいっていうのもありますけど。

――ご自身で、役者としての成長を感じることはありますか?

細かいことですが、『百花』の時に、ワンカットで泣いたあとに吐くシーンがあって。吐瀉物を口に含んだ状態で泣いてから吐くんですが、人間の生理現象として何か1個我慢をすると他も止まるのか、涙も止まってしまうんです。20回以上やってやっとできましたけど、神経の伝達で感情を分けることを知ったりもしました。

――役者としての概念とかではなく、すごく技術的なことですね。

笑えるか泣けるかも大事ですけど、まず、カメラに映れるかどうか。そういう単純な運動神経なんかも、すごく必要なんです。

――日常生活で、自分は役者だなと思うことはありますか?

実は今、やっと少しゆっくりしているんですが、昼間スーパーに行くとお母さんたちばかりで。その中にいる僕は「何をやってるかわからないおじさん」だと思われているのかもしれない(笑)。お母さんたちがトマトに手を伸ばす中に、僕の毛の生えた腕があったりして。でも役者だからそうやって昼間も休めたりするから、そういう何気ない時にふと、役者を感じているかもしれません。

『ミステリと言う勿れ』

©田村由美/小学館
©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27社

すだ・まさき 1993年2月21日生まれ、大阪府出身。公開中の劇場アニメ『君たちはどう生きるか』に、声優として出演。また、出演映画『笑いのカイブツ』は2024年1月5日公開予定。

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※『anan』2023年8月30日号より。写真・野田若葉 スタイリスト・猪塚慶太 ヘア&メイク・AZUMA 取材、文・若山あや

(by anan編集部)

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