名作絵本図書館──男の子と女の子の世界。

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December 8, 2022 | Culture, Art, Design | 名作絵本図書館

テーマ&ジャンル別に名作絵本をセレクトしました。少年や少女から見た世界に、子供たちは深〜く頷き、大人たちも微笑んでしまうかも。

男の子は最初は小さいけれど、ぐんぐん伸びる。『ティッチ』(福音館書店)。作・絵:パット・ハッチンス 訳:いしいももこ

花に動物におしゃれ…愛らしいものに惹かれ慈しむ女の子。対する男の子は海や山や雪道を駆け巡る。お兄ちゃんやお姉ちゃんに敵わないのは悔しいし、弱虫は克服したい。僕たちは、もっと強く、もっと広い世界が見たいのだ! 少年と少女ならではの繊細な心模様を描く本をご紹介します。

■ 女の子の夢見る5冊。

『げんきなマドレーヌ』かわいい女の子たち in パリ。

作・画:ルドウィッヒ・ベーメルマンス 訳:瀬田貞二(福音館書店)1,430円/1972年

1939年にアメリカで発行された「マドレーヌ」シリーズの2作目。パリの寄宿舎に住む12人の女の子の中で、一番ちびで物怖じしないマドレーヌ。寄宿舎での日常と、突然の病気&入院という大事件がテンポよく描かれていて、子供らしい心情がかわいい作品。日本語訳の独特の言い回しも味があり、背景のエッフェル塔やオペラ座などパリのランドマークを見つけるのも楽しい。

『わたしと あそんで』動物たちと仲良く遊ぶには…?

文・絵:マリー・ホール・エッツ 訳:よだじゅんいち(福音館書店)1,210円/1968年

原っぱに出かけた好奇心旺盛な女の子。「あそびましょ」と小さな動物たちに駆け寄ると、みんなサッと逃げていってしまい…。『もりのなか』のモノクロ世界とはガラリと違う、マリー・ホール・エッツのクリーム色を基調とした柔らかいタッチの挿絵、純粋な女の子と動物たちのやりとりがほほえましい。常に優しい日差しと笑顔で見守っている太陽の存在が作品をより温かいものにしている。

『わたしのワンピース』少女のための、洋服作り絵本。

絵・文:にしまきかやこ(こぐま社)1,210円/1969年。

幼い女の子が描いた絵のような優しいタッチが特徴の絵本作家・にしまきかやこの代表作。最初は絵だけで楽しめる絵本を作ろうと描かれた。後からつけたという「ラララン、ロロロン」と口ずさむ歌も、繰り返す「わたしににあうかしら」のフレーズも魅力的。散歩していくと、花、雨、虹、星と次々変わっていくワンピースの模様は、おしゃれを夢見る女の子の空想世界そのもの。

『まりーちゃんとひつじ』南欧の素朴な女の子絵本の傑作。

作・絵:フランソワーズ 訳:与田凖一(岩波書店)880円/1956年

作者フランソワーズが生まれた南フランスの牧歌的な田園風景を背景に、まりーちゃんが羊のぱたぽんに夢を語る。木靴や頭に巻いた赤いスカーフなど、絵本からあふれ出るフォークロアな世界観が魅力。童謡詩人の第一人者である与田準一の訳はリズムが心地よく、ぜひ声に出して読みたい。あひるのまでろん、男の子のぴえーるも登場する『まりーちゃんのはる』も同時収録されている。

『ちいさな ちいさな おんなのこ』早く大きくなりたい乙女心を描く。

文:フィリス・クラシロフスキー 絵:ニノン 訳:福本友美子(福音館書店)1,210円/2011年

1953年にアメリカで刊行された名作が、60年の時を越えて日本で発行。ちいさなちいさなおんなのこが少しずつ成長していく喜びを、目を細めながら共感できる絵本。ピンクとライトグリーンの2色のみで色づけされたイラストは、半世紀を越えても新鮮で、乙女心をくすぐる。女の子の水玉ドレスに合わせた製本テープ風のデザインやドットの透かしが入った見返しもひたすらガーリー。

■ 少年の冒険心を刺激する5冊。

『ティッチ』お兄ちゃんたちに負けたくない!

作・絵:パット・ハッチンス 訳:いしいももこ(福音館書店)1,210円/1975年

『ロージーのおさんぽ』などで知られるイギリス、ヨークシャー出身の女流作家パット・ハッチンスの作品。ティッチは小さな男の子。お姉さんのメアリやその上のお兄さんのピートに何をやってもかなわない。兄姉を持つ人なら誰しも経験があるだろう年上への焦燥感やくやしさ、悲しみを的確かつユーモラスに描く。ラスト、ある意外な大逆転を成し遂げたあとの、得意げなティッチの表情がいい。

『よあけ』少年が出会う、美しい夜明け。

作・画:ユリー・シュルヴィッツ 訳:瀬田貞ニ(福音館書店)1,320円/1977年

静寂に包まれた夜明けの情景を見事に切り取る名作絵本。湖畔で眠る孫の少年と老人。二人は太陽が昇る前に起き、ボートで湖に出る。作者は、唐の詩人・柳宗元の詩「漁翁」をモチーフに描いたと語る。絵もまた東洋の墨絵のように水彩絵の具をじんわりとにじませ、濃紺から藍色へ、その濃淡で明けゆく空の微妙な変化を繊細に描き出す。朝日が昇る瞬間は、震えるほど美しい名シーン。

『ゆきのひ』小さな男の子の雪の日の冒険。

文・絵:エズラ・ジャック・キーツ 訳:きじまはじめ(偕成社)1,320円/1969年

朝、目を覚ますと窓の外は一面の雪。主人公の黒人の男の子、ピーターは赤いマントを着て雪世界の探検へ。雪に足跡をつけ、木の上の雪を棒でつつく。帰るときにはこっそり雪の玉をポケットにしのばせ…。雪とたわむれる少年を通し、どの世界でも変わらない子供の無邪気さを描く。絵の白い雪と赤マントの対比など、切り絵のコラージュと油絵を組み合わせた技法も素晴らしい。

『なつのいちにち』夏休みの記憶を呼び覚ます。

作:はたこうしろう(偕成社)1,100円/2004年

『ゆきのひ』が雪降る日の子供心を思い出させる一冊だとしたら、こちらは暑かった夏の記憶を呼び覚ます一冊。主人公の少年は麦わら帽子と虫網を持ってひとりクワガタ採りへ出かける。街を抜け、海岸を走り、田んぼを駆け、山へ疾走する主人公。なぜ、そんなに走るのか。でも、そのあふれ出る躍動感が心地いい。見開き絵からはセミの鳴き声や草を踏む音、川のせせらぎまで聞こえてきそう。

『ラチとらいおん』勇気を与えてくれるのは誰?

文・絵:マレーク・ベロニカ 訳:とくながやすもと(福音館書店)1,210円/1965年

日本でも高い評価を集めるハンガリーの国民的絵本作家マレーク・ベロニカ。なかでも人気の一冊。飛行士を夢見るけれど世界中で一番弱虫と言われてしまう男の子ラチ。犬を見ると逃げ出し、暗い部屋にも入れない臆病者。しかし「あかいらいおん」と一緒に弱虫を克服することに。「あかいらいおん」という勇気を手に入れて一歩ずつ変わるラチの姿が、多くの男の子たちの背中を押してくれる。