圧巻! 沖縄の名建築10【沖縄シティガイド】

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February 11, 2023 | Architecture, Travel | casabrutus.com

その気候や風土の影響、さらに戦後コンクリートが広く普及した経緯などから、独自の発展を遂げてきた沖縄の建築群。市庁舎から美術館、アリーナ建築まで、いつかは訪れたい沖縄の名建築10選を紹介します。

・〈名護市庁舎〉象設計集団+アトリエ・モビル(1981年)

入り口前の広場から見る。コンクリートの構造体と植栽が絡み合う姿は、まるで要塞や遺跡のようだ。photo_Wataru Oshiro

沖縄らしさを体現した、圧倒的な存在感の市庁舎建築。

沖縄本島北部の玄関口、名護市。その街の中心地に突如として現れるのが、まるで城か要塞のようなこの建物。象設計集団+アトリエ・モビルが1981年に手がけた〈名護市庁舎〉は、圧倒的な存在感を放つ公共建築だ。沖縄という土地の文化や風土を反映し、また街の環境との連続性を意識して設計された。

随所に見られる特徴的な意匠のブロックは、沖縄特有の「花ブロック」と呼ばれるものの1つ。photo_Wataru Oshiro

素材の大半を占めるのはコンクリート・ブロック。潮風や台風に強く、また戦後に駐留したアメリカ軍の影響で急速に普及したコンクリートは、沖縄の建築に欠かせない存在。象設計集団+アトリエ・モビルは、この素材を積極的に用いることで「沖縄の質感」を表現した。

また、やんばる地方における祭祀の場所である「アサギ」をモチーフにしたルーバーなどにも、土地への敬意が感じられる。前面の広場からシームレスに建築へと繋がる街に開かれたこの建築は、完成から40年以上経った今、名護市を象徴する存在の1つとなっている。

名護市庁舎

沖縄県名護市港1-1-1。8時30分〜17時15分。土曜・日曜休。

・〈国立劇場おきなわ〉高松伸(2004年)

浦添市の海沿いの開けた地に位置する。大きく沿った「チニブ」をモチーフとした外壁は、まるで咲き誇る花のようだ。photo_Wataru Oshiro

琉球王国の古都に建つ、伝統的意匠を取り入れた劇場。

那覇市に隣接し、かつては琉球王国の首都だった街、浦添市。その海沿いの開けた地に建つのが〈国立劇場おきなわ〉。「組踊」など沖縄の伝統芸能の伝承・発信を目的とした施設だ。設計を手がけたのは、高松伸。沖縄の文化や風土を反映する建築を模索する中で見つけたのが、「チニブ」と呼ばれる伝統的な民家の様式だった。

チニブとは植物を編んで作られた塀のことで、直射日光を遮りながら外気を取り入れることができる、沖縄の風土から生まれた技法。高松はそのチニブのデザインから着想を得て、外壁を大きく枝葉を編んだような意匠に手がけた。

外側に向かって反るように設計された外壁。特徴的な意匠のモチーフが「チニブ」だ。photo_Wataru Oshiro

施設内は大きく、大劇場・小劇場・稽古室で構成される。本来、沖縄の伝統芸能は屋外で演じられるものであり、劇場を必要としないもの。そうした経緯から、どういった劇場が適しているのか、研究者や演出家なども交えて検討が重ねられた結果、芝居小屋のような劇場形式となった。

劇場には木を多用しているが、これは沖縄が木材に乏しく、だからこそ人々に木への愛着が強くあるという理由から。古都の地に悠々と建つその姿は、まるで咲き誇るデイゴの花のようにも見える。

国立劇場おきなわ

沖縄県浦添市勢理客4-14-1。10時〜18時。年末年始休(ほか臨時休業あり)。

・〈沖縄美ら海水族館〉国場幸房(2002年)

半屋外のパーゴラが入り口で出迎える。手前に見えるのは、ジンベエザメのモニュメント。

水深10メートルの巨大水槽が大迫力な、沖縄を代表する水族館。

沖縄本島北部の本部(もとぶ)半島の端に位置する水族館。〈那覇市役所〉や〈ホテルムーンビーチ〉などを手がけた沖縄出身の建築家、国場幸房が設計を担当した。

沖縄の亜熱帯気候の風土を鑑みて設けた、半屋外のパーゴラ(柱と屋根で構成される空間)がエントランスで出迎える。国営公園である〈海洋博公園〉の山手側に位置しており、その斜面に沿って建てることで海への眺望も確保した。

エントランス広場にある、半屋外のパーゴラ空間「海人門(ウミンチュゲート)」。沖縄の気候に配慮して作られた空間には、風や光が気持ちよく通り抜ける。その向こうには東シナ海が広がる。

館内は1〜4階の全4フロア。各階にテーマが設けられており、沖縄周辺の海に生息する様々な海洋生物に出会うことができる。

中でも圧巻なのは、1階フロアに設けられた水深10メートル、容量7,500立方メートルにもおよぶ大水槽。ジンベエザメやマンタの飼育繁殖の場として機能しながら、観客を楽しませる鑑賞の場にもするために、国場は高さ8メートル超、幅22.5メートル、厚さ60センチメートルの大型アクリルパネルを設置し、あたかも海中に入り込んだかのような臨場感を味わえる空間を実現した。

そのほか大水槽から繋がる、まるで海底にいるような気分で真下からジンベエザメの観察が可能な半ドーム状の「アクアルーム」など、様々な角度から楽しめる仕掛けを施し、沖縄の海の魅力をあますところなく伝える空間を作り出した。

沖縄美ら海水族館

沖縄県国頭郡本部町石川424 国営沖縄記念公園(海洋公園)内。8時30分〜18時30分(入館は17時30分まで)。繁忙期は営業時間が異なる。休館日や繁忙期は公式サイトを要確認。

・〈沖縄アリーナ〉梓設計・創建設計・アトリエ海風共同企業体[鹿島建設・OKAMURA DESIGN](2021年)

バスケットボールが描かれた建物前の広場。photo_Satoshi Nagare

日本のアリーナ建築を更新する、エンターテインメント性を重視した多目的施設。

2021年に沖縄市に誕生した多目的アリーナ。本場アメリカにも引けを取らない、バスケットボールのための日本初の本格的なアリーナを目指して設計された。

特徴的な八角形の形状は、観客席をできるだけコート面に近づけ、臨場感を楽しんでもらうため。観客席の上部に勾配をつけ、すり鉢状にしたのも同じ狙いだ。

施設内の〈コートサイドラウンジ〉。会議やパーティなどに用いられる。ラウンジには、バスケットボールがあしらわれたテーブルが。photo_Satoshi Nagare

中央の510インチのメガビジョンや各所に配されたリボン型のビジョンなど、これまでの日本のアリーナには無い、観客の「観る」という行為にフォーカスしたエンターテインメント性の高い仕様に驚く。

丘陵の敷地に建ち、高低差を利用しボリュームを抑えた設計にすることで、周りの景観にも配慮した。また、目の前に位置する交差点に面するように入り口前の広場空間を配することで、施設の圧迫感を軽減するなど、細かな点にもこだわりが光る。

沖縄アリーナ

沖縄県沖縄市山内1-16-1。入場は各イベント時だが、施設内のショップは来店が可能。16時〜20時(土・日・祝10時〜)。火曜休。

・〈那覇市役所〉国場幸房(2012年)

県内一の大都市、那覇市の中心地に突如として現れる緑で覆われた空間。photo_Wataru Oshiro

「亜熱帯庭園都市」那覇を象徴する市庁舎建築。

那覇市の中心地に建つ、緑で覆われた市庁舎。「亜熱帯庭園都市」としての那覇のシンボルを目指して設計されたこの建築は、緑化されたルーバーが外周を囲み、ひな壇状に作られた低層部の各階は屋上庭園となっている。

建物内の吹き抜け空間にも植物やツタが生い茂る。国場を代表する建築〈ホテルムーンビーチ〉を連想させる空間だ。photo_Wataru Oshiro

設計を手がけた国場幸房は、沖縄を代表する建築家の1人。これまでも〈ホテルムーンビーチ〉などで緑のあふれる建築を手がけてきたが、この建築ではさらに建築としての主張を弱め、緑化を第一として設計した。中層〜上層階は吹き抜け空間となっており、そこにも植物やツタが生い茂る。

県内一の大都市である那覇の中心地にできた緑の空間は、市庁舎機能としてだけではなく、市民の憩いの場としても広く開かれている。2016年に逝去した国場の最後の作品であり、集大成とも言える建築だ。

那覇市役所

沖縄県那覇市泉崎1-1-1。8時30分〜17時15分。土曜・日曜・祝日・慰霊の日・年末年始休。

・〈今帰仁村中央公民館〉象設計集団+アトリエ・モビル(1975年)

真っ赤な各部屋を分散して設け、それらを回廊が繋ぐ構造。photo_Wataru Oshiro

鮮やかな赤の空間が回廊で繋がる、村民の憩いの場。

沖縄本島北部の本部半島に位置する今帰仁村。半島を周遊する国道505号線を走らせると、開けた地に建つ真っ赤な建造物が飛び込んでくる。〈今帰仁村中央公民館〉は、村の様々なイベント会場や村民の憩いの場として建設された施設だ。

設計を手がけたのは、象設計集団+アトリエ・モビル。大屋根の下にいくつかの部屋を分散して配置し、それらを真紅の支柱で構成された回廊で繋ぐことで、風通しが良く開放感のある空間を実現している。

各部屋を繋ぐ回廊。赤く彩られた列柱が続いていく。沖縄の民家に見られる「アマハジ」という庇をモチーフにしている。photo_Wataru Oshiro
竣工当時の〈今帰仁村中央公民館〉。屋根にブーゲンビリアを植栽していたが、今は無くなっている。

中央に並ぶ3本の柱は、野外劇場の舞台作りのために作られたもの。また現在はRC打ちっぱなしの大屋根が剥き出しになっているが、かつてはこの屋根一面をブーゲンビリアが覆っていた。

象設計集団は「これは建築緑化及び断熱のためでしたが、現在は枯れてしまい、屋根ははだかになっています。いつの日か復元されることを望んでいます」とコメントを寄せている。

今帰仁村中央公民館

沖縄県国頭郡今帰仁村仲宗根。公民館として、サークル活動や各イベント時に利用可能。外部の見学は自由に可能。

・〈沖縄県立博物館・美術館〉石本建築事務所(2007年)

那覇市の新興エリアに出現する、「グスク(城)」のような外観の建築。「おきみゅー」の愛称で知られている。

「グスク(城)」のようにそびえる博物館&美術館。

〈沖縄県立博物館〉の建て替えとして完成した、博物館と美術館が一緒になった複合施設。沖縄独自の文化や歴史を継承・発信していくという施設の活動と対応するように、外観は琉球王国の時代に見られる「グスク(城)」をモチーフとし、建築としても沖縄の伝統を反映したデザインとなっている。

外壁の外側にプレキャストコンクリート版(PC版)を配したダブルスキン構造が特徴。グスクに見られる曲線をこのPC版によって再現、素材には白セメントに加えて琉球石灰岩やサンゴを用いており、ここにも土地へのリスペクトが見える。また外壁のガラス面の外側には穴あきのPC版を配することで、適度に光を採り入れつつ日差しと暴風雨にも強い。

エントランスホール。10本のクバ(ビロウ)の木をイメージした柱が立ち並ぶさまは圧巻だ。

エントランスホールに入ると、まるで木のようにそびえたつ構造体が並ぶ。クバ(ビロウ)の木をイメージしたというこの柱は、沖縄の人々が大事にする「木漏れ日の空間」をイメージしたもの。沖縄では、コミュニティの憩いの場として木陰の空間を重んじる文化があり、そこから着想を得た。

館内は博物館エリアと美術館エリアに分かれており、自然や歴史から現代美術まで、沖縄に関する多彩な展示が行われている。博物館と美術館を合わせた収蔵品数は、なんと約10,000点を超える。

沖縄県立博物館・美術館

沖縄県那覇市おもろまち3-1-1。9時〜18時(金・土〜20時)。月曜(月曜が祝日の場合は翌平日)・年末年始休。その他メンテンス休館あり。

・〈糸満市役所〉日本設計(2002年)

この建築を代表する特徴である、南面の大型ルーバー。組み込まれた太陽光パネルによって庁舎の電力をまかなっていた。

巨大ルーバーが目を引く、広く街に開かれた市庁舎。

沖縄本島の最南端に位置する街、糸満市。日本設計の手がけた同市の市庁舎は、四方が異なるルーバーで覆われた外観が印象的な建築だ。中でも目を引くのが、南面のルーバー。連続する水平のルーバーが斜めに配されている。

これは、沖縄の民家に見られる伝統的な建築様式である“アマハジ(雨端、軒下のこと)”をモチーフにしたもの。南国の強烈な日差しを遮りながら、室内からの眺望も担保しつつ、それぞれのルーバーが、竣工当時に各ルーバーに付けられていた太陽光パネルに影を落とさないように、ミリ単位での調整がなされたという。

南面のルーバー。太陽光パネルの発電効率を最大化する角度・間隔で設計された。

また同建築は、それ単体で存在するのではなく、周りの環境との連続性も深く考えられて設計された。南面ルーバーは、庁舎の手前に位置する市民広場に面しており、“アマハジ”の空間を介して、内と外を緩やかに繋いでいる。

また、西面に設けられたブリッジや大階段も同様に、慶良間諸島を望むテラスと内部を繋ぐものとして機能する。沖縄の建築が持つ「半屋外空間」の伝統を、現代の技術で再現した建築だ。

糸満市役所

沖縄県糸満市潮崎町1-1。8時30分〜17時15分。土曜・日曜・祝日・年末年始休。

・〈ホテルムーンビーチ〉国場幸房(1975年)

ポトスが生い茂る北棟ロビーの吹き抜け空間。ときおり天窓から雨も滴り、幻想的な雰囲気を醸し出す。

巨大なピロティ空間と吹き抜けロビーが圧巻の、沖縄リゾートホテルの先駆者。

多くのリゾートホテルが建ち並ぶ沖縄本島中部の恩納村。今から約50年前、同地のリゾートホテルの先駆けとして誕生したのが〈ホテルムーンビーチ〉。

設計を手がけたのは沖縄出身の建築家、国場幸房。その最大の特徴は何といっても、竣工当時、全長400メートル、約3,000坪にもおよんだピロティ空間だ。

北棟ロビーの吹き抜け空間。ピロティとなった地上空間から風が通り抜ける。

国場がピロティのモチーフとしたのが、自身が学生時代に見た、八重山のガジュマルの木。そのガジュマルの木陰を、この建築で表現したのだ。ホテル前に広がる海などの周りの風景との連続性を確保し、人々の憩いの場になることを目指して設計された。

また北棟のロビーは吹き抜け空間となっており、最上階からはポトスが生い茂っている。天窓からは柔らかく光が差し込み、地上のピロティ空間から風が通り抜ける。その様子は、国場が追い求めた「光と風の建築」そのものだ。

ホテルムーンビーチ

沖縄県国頭郡恩納村前兼久1203。無休。

・〈浦添市美術館〉内井昭蔵(1991年)

11もの塔が回廊で繋がる。他の沖縄建築とは一線を画した建造物だ。

11もの塔が連なる、日本初の漆器専門美術館。

〈浦添市美術館〉は、沖縄初の公立美術館、そして日本で初となる漆器専門の美術館だ。館内では琉球王国時代の16世紀から現代までに作られた琉球漆器を中心に、日本および周辺諸国の漆器を展示している。

建築を手がけたのは、内井昭蔵。菊竹清訓に師事し、〈世田谷美術館〉などを手がけた建築家だ。11もの塔が建ち並び、各塔を回廊が繋ぐ光景は、周囲の風景および沖縄の他の建築とは一線を画する。

塔を人間や世界に見立てた内井。その塔が回廊で繋がることで、人や世界が共存する様子を表現した。

この建築について、内井はこう語っている。「建築は垂直方向に展開される塔性と、水平方向に展開される回廊性によって構成される。塔性とは足で地をつかんでいる人間、一つの世界を表現し、回廊性とは人と人、世界をつなぐ存在を表現する。人や世界は一つではなく、多くの人や世界とつながって共存し、より大きな存在となる」

一見すると美術館らしくないユニークな建築物だが、世界中から人々が集まる美術館という場にこの建築が選ばれたのには、内井のこうした思いがあったのだ。

浦添市美術館

沖縄県浦添市仲間1-9-2。9時30分〜17時(金〜19時、入場は閉館の30分前まで)。月曜休。