上田義彦の代表作《サントリーウーロン茶》の写真展が2箇所同時開催。

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July 22, 2023 | Art | casabrutus.com

24歳の時に「流行通信」でデビューして以来、40年以上にわたって神聖な森や川、自身の家族、ポートレイト、建築などさまざまな主題を撮ってきた写真家の上田義彦。最もよく知られるコマーシャルフォトでもある《サントリーウーロン茶》の写真作品が、〈ギャラリーオンザヒル〉と〈小山登美夫ギャラリー 六本木〉の2箇所で展示されます。

1992年 北京 ©Yoshihiko Ueda

《サントリーウーロン茶》の広告はコピーライターの安藤隆やアートディレクターの葛⻄薫とともに上田が手がけた代表作。1990年から2011年までの約20年間、南は海南島から北はハルビンへとロケ地を求めて中国各地を巡った旅の記録であり、変容していく中国を写した歴史の記録とも言える。
 
上田は当時の中国の風景を「遥か感」という言葉で表現する。広大な地にぼんやりと霞んだ空気の層が漂う独特な眺めと、その時代を生きる人々の人間模様や美しい風景がインスピレーションとなり、《サントリーウーロン茶》の数々の名シーンが生み出された。多彩な表現の中には、ロケを進める中で偶発的に遭遇した情景なども含まれており、旅を重ねることで膨らんでいく、ワクワクとした上田の穏やかな喜びが鮮明に焼き付けられている。

ウーロン茶のことを想うと、
なぜか僕は決まって冬の北京空港に降り立った時のことを思い出す。
 
1980年代の北京空港は今とは違い、かなり小さな空港だった。
当時そこに降り立つと暖房に使う練炭や石炭を燃やしたような香りが
いつも微かに漂っていた。そして、その香りを嗅ぐたび、
中国にまたやってきたんだという静かな喜びが、ふつふつと湧いてきた。
当時の古いロビーのガラス窓越しに、
ボーッと白く煙った、遥か遠くの水平線を見つめていると、
自然に「遥か感」という言葉が僕の頭に浮かんできて、
その度、その言葉をそっと心の何処かで呟いていた。
(写真集「いつでも夢を」序文より)

会場となる〈ギャラリーオンザヒル〉では広告用として 8×10カメラで撮影された作品と共に、上田がロケの合間に35mmフィルムカメラで撮影したスナップも展示販売。自ら写真現像を行う上田は「写真そのものが持つ美しさを実験的な額装で体現させる」という。

展覧会のタイミングにあわせて同名の新刊写真集も〈赤々舎〉から刊行されるほか〈小山登美夫ギャラリー 六本木〉では、《サントリーウーロン茶》の広告のために中国各地(大連~海南島の海岸沿い)で撮影された作品の中から、女性のポートレートを中心に、上田自身が120cm×170cmの大判プリントに焼き付けた作品が展示される。

「上海」 1999 c-print (c) Yoshihiko Ueda, Cortesy of Tomio Koyama Gallery

「写真を撮るという行為において、アート、広告と分けて考えるのはナンセンス」とは上田の言葉。広告の意図を超えて「作品」として成立する写真群を一挙に見ることができる機会となる。

『いつでも夢を』

アートディレクションは葛西薫。H257mm×W182mm布製上製本。584ページ。赤々舎刊。14,300円。

〈ギャラリーオンザヒル〉
東京都渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟1F。12時〜19時(最終日11時〜17時)。月曜休。2023年7月26日〜8月13日。入場料500円(高校生以下無料)。8月4日19時〜20時にかけて安藤隆・葛西薫とともにトークショーも開催。申し込みは公式サイトから。
〈小山登美夫ギャラリー 六本木〉
東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F TEL 03 6434 7225。11時〜19時。日・月曜休(8月15日〜19日夏季休業)。2023年7月29日〜8月26日。入場無料。

上田義彦

1957年兵庫県生まれ。写真家福田匡伸氏、有田泰而氏に師事した後、1982年独立。東京ADC賞最高賞、ニューヨークADC賞等、国内外の代表的な国際デザイン賞を多数受賞。2014年日本写真協会 作家賞を受賞。同年より多摩美術大学グラフィックデザイン科教授として後進の育成にも力を注いでいる。2011年~2018年、自身のスペース〈Gallery 916〉を主宰し、写真展企画、写真集の出版プロデュースを行う。2021年には、初めて脚本、監督、撮影を手がけた映画作品「椿の庭」を公開。