デジタルとアートが開く未来を〈金沢21世紀美術館〉で見る|青野尚子の今週末見るべきアート

続きを読む

November 16, 2023 | Art | casabrutus.com

この惑星はデジタルで覆われている。そこで生まれるアートは私たちをどう変えていくのだろう? 「DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)―次のインターフェースへ」はデジタルとアートとの関係からこの星の行方を探るもの。宇宙船のような建築の〈金沢21世紀美術館〉で開催中です。

スプツニ子!《幸せの四葉のクローバーを探すドローン》(2018-2023年)。ドローンが撮影した映像を解析して高速で幸せの四葉のクローバーを見つける。これでみんな幸せになれる、はず。(c) Sputniko!

展覧会タイトルの「DXP」は「デジタル・トランスフォーメーション・プラネット」の頭文字をとったもの。丸い形の〈金沢21世紀美術館〉が惑星のように見えることも関係している。このグループ展に参加しているのは23組。アートだけでなく建築やファッション、サイエンス、ゲームなどさまざまなジャンルを横断しているのが特徴だ。

草野絵美《Morphing Memory of Neural Fad》(2023年)。過去のファッショントレンドをAIに学習させて出力した架空の光景。

会場に入ってすぐのところにあるモニターには奇妙な服装で踊り狂う若者の姿が映し出される。これはレトロフューチャーをテーマにしているアーティスト、草野絵美の作品だ。画面に登場するのは実写ではなく、「モボ・モガ」「フーテン族」「タケノコ族」など、80年代以前のストリートファッションの説明文を画像生成AIに入力し、ニューラルネットワークで調整したもの。ありそうでなかった過去が未来に登場するかもしれない、そんな不思議な感情にかられる。

東京大学池上高志研究室(協力:大阪大学石黒浩研究室)《Alter3》(2018年)。同展にも出品している河野富広のウィッグをつけている。「人間とロボットの違いは?」といった質問にはすらすらと答えたが、「好きなアイスの味は?」と問うと長考していた。

《Alter》(オルタ)は東京大学 池上高志研究室が2016年から開発を続けているヒューマノイドロボット。今回は3号機である《Alter3》が展示されている。この《Alter3》には哲学者、科学者、小説家、芸術家、ミュージシャン、10歳の子どもの6つの人格がプログラミングされており、鑑賞者が話しかけると内容に応じていずれかの人格が返事を返す。この対話を通じて学習を積み重ね、より人間らしい自然な会話ができるようになるのだという。

VUILD《わどわーど― ことばでつくる世界》(2023年)。入力された言葉から椅子をデザイン、制作してくれる。会期中、1週間に1脚のペースで制作する予定だ。

建築系スタートアップ企業、VUILDは美術館の中に「ラボ」を作った。このラボでは来場者が言葉を入力するとAIが3Dデータに変換し、パーツを作ってくれる。それを組み立てると椅子になる仕組みだ。入力する言葉は「犬」などの具象物でもいいし、「優しさ」といった抽象的な単語でもいい。VUILDはテクノロジーによって誰もが作り手になれる「建築の民主化」を目指している。AIと建築家の協働で建築の自由さを取り戻そうとしているのだ。

MANTLE(伊阪柊+中村壮志)《simulation #4 -The Thunderbolt Odyssey-》(2023年)。ディスプレイ上に雷が落ちると、映し出される街並みが変化していく。

金沢は日本でもっとも雷の多い地域の一つなのだという。その雷によって都市が変容する様をシミュレーションしたのがMANTLE(伊阪柊+中村壮志)の作品だ。ディスプレイ上の積乱雲から発生した“雷”が落ちるとさまざまなイベントがランダムに出現する。雷は逆さまになった避雷針へと駆け抜ける。雷は建物を破壊することもあれば、電気によって古代の海に生命体が生まれたという説もある。雷によって破壊と再生を繰り返す街の姿は、人工と自然とのせめぎ合いを思わせる。

メルべ・アクドガン《ゴースト・ストーリーズ》(2023年)。一般の人から公募した廃墟の写真。

トルコのデザイナー、建築家のメルベ・アクドガンの作品は2面の映像からなるインスタレーション。片方には廃墟の写真がモーフィングで変化していく様子が映し出される。その変化は、もう片方の映像に流れる「サステナブル」「革新的」「バリア」「包括的」といったさまざまなキーワードに基づいてAIにより生成されている。この作品は日本でも注目されている空き家問題にフォーカスをあてたものだ。使われなくなった建物にも思い入れを持つ人もおり、コストの問題もあってそう簡単に取り壊すこともできない。モーフィングによって現れる廃墟の未来の姿にはリノベーションされてきれいになった建物に人々が集うハッピーなものもあって、希望がわいてくる。

デイヴィッド・オライリー《Eye of the Dream》(2018-2023年)。音に応じて“生命体”が生まれる映像インスタレーション。

〈金沢21世紀美術館〉の中でも特徴的な円形の展示室ではぜひ、飛んだり跳ねたり手を叩いたりして音を出してみてほしい。この音に反応して円形の壁全体にぐるりと投影されている映像が変化する。このデイヴィッド・オライリーの作品は生命の誕生をシミュレーションしたもの。音の大きさや高さなどに対応して映像が変化する。自分が万物の創造主になったような気持ちになれる。

松田将英《Souvenir》(2023年)。物理の認証バッジが買える自動販売機。

ショップの脇に出現した自動販売機は松田将英の作品だ。千円を投入するとSNSの認証マークを模したバッジが購入できる。デフォルトは青いバッジだが、100分の1の確率で金沢金箔を使ったゴールド認証バッジが当たる。バッジを身につければ認証済みであることが一目でわかる。アートの値段や承認欲求をめぐるさまざまなことを考えさせる。

河野富広《Fancy Creatures》(2023年)。壁のモニタでヴァーチャルにウィッグを装着できる。

海中の生きもののようにふわふわと漂っているのは河野富広がつくったウィッグだ。人毛を染めた繊細なウィッグはK-POPのミュージシャンたちにも愛されている。今回はコロナ禍で開発した、ヴァーチャルにウィッグを装着できるシステムも展示される。画面上で、動物や虫からインスピレーションを得たウィッグをかぶると自分が他の生物に寄生されてしまったようにも感じられる。

アンリアレイジ。モデルの前のスクリーンに服などのイメージが映し出される。

ファッションデザイナーの森永邦彦率いるアンリアレイジも2020年から2022年、コロナ禍で発表したコレクションをもとにしたインスタレーションを展示している。この間の4つのコレクションでアンリアレイジは実際のモデルとデジタルによる映像とを組み合わせたショーを見せた。今回の作品はその4つのショーをマッシュアップしたもの。リアルとデジタルの境界線を揺らがせる。

ジョナサン・ザワダ《犠牲、永続の行為》(2023年)。ヒト染色体の情報に基づいて地層が描かれた3枚の絵画をウェブカメラで撮影、機械学習によって説明テキストになる、といった情報の変換を行うインスタレーション。途中のエラーやデータの消失も折り込まれている。

デジタルに限らず新しい技術は、ともすれば人間を置いて先に進んでいってしまう。この展覧会ではアートやファッションがデジタルと人間をどうつなぐのか、さまざまな実験を見せてくれる。

Keiken《形態形成天使:第1章:おもいやり》(2023年)。人間以外の意識を取り入れるポスト・ヒューマン「天使」を操作するゲームをプレイできる。

『DXP(デジタル・トランスフォーメーション・プラネット)―次のインターフェースへ』

〈金沢21世紀美術館〉石川県金沢市広坂1-2-1。展示室7〜14(要チケット/一般 1,200円)、デザインギャラリー(無料)、長期インスタレーションルーム(無料)〜2024年3月17日。10時〜18時(金・土曜日は20時まで)。月曜(ただし1月8日、2月12日は開場)、12月29日~2024年1月1日、1月4日、1月9日、2月13日休。