発見の種がちりばめられた、童話作家・角野英子による文学館。

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January 4, 2024 | Culture | a wall newspaper

ライブラリーにアトリエ、いちご色のコリコの町も。約1万冊の本が集まる、角野栄子の世界へようこそ。

館内に入ると目に飛び込んでくる、一面いちご色の「コリコの町」で。『魔女の宅急便』の舞台になった町だ。壁はプロジェクションマッピングで彩られる。

どこにもないものができました」と、『魔女の宅急便』などの作者として知られる角野栄子さん。11月に開館した〈魔法の文学館〉完成時の印象をそう話す。ここは角野さんの作品と創作の背景を知ることができて読書も楽しめる児童文学館だ。

ことの始まりは2018年。国際児童文学賞の国際アンデルセン賞作家賞と、育った江戸川区の区民栄誉賞を受賞。当時の区長から直々に文学館のオファーが。

「最初は私が読み聞かせをしたり、みんなで絵を描いたりする小さなものを想像していました。でも建築を手がけるのが隈研吾さんと決まって、きっとすごいことになると思ったんです。私からのお願いは2つ。空間をいちご色にすることと『魔女の宅急便』の舞台『コリコの町』を作ること。隈さんも熱心に耳を傾けてくれました」

コリコの町 『魔女の宅急便』の舞台となった町がモチーフ。右手にも本が並ぶ。階段の各段の端にはクッションが敷いてあって、ここで読書することもできる。

打ち合わせには娘でアートディレクターのくぼしまりおも参加。角野さんのいちご色のコリコの町というイメージに沿って内部をデザイン。また、これまでに訪れた旅先で触れてきたデザインも反映されているという。

「デンマークで船に乗ったんです。そこの水道のカランは赤色でした。日本だとほとんどシルバーじゃないですか? だから印象に残っていて。60年ほど前のことだけど、いいデザインはずっと頭に残る。子どもたちにもそんなものに触れてほしくて、ここでもカランは赤にしました」

〈魔法の文学館〉には本が約1万冊。角野さんと〈BACH〉の幅允孝、山口県下関市の児童書専門店〈こどもの広場〉店主・横山眞佐子の3人が選書した。でもその並べ方は「バラバラ」だ。

「面白いと思った本を自分で探してほしいんです。見つけられるのはもちろん、途中で別の面白さに気がつくのもいい。そうやって新たな発見もできるようにね」

ライブラリーに置かれたソファ。千鳥格子柄のモチーフはコリコの町の時計台。

「発見」のための仕掛けは至るところに。小さな扉の内側にはパラパラ漫画や立体虚像が隠れていたり、2階から階下を見下ろす窓があちこちについていたり。一見、1色に見える館内のいちご色も実は3色に塗り分けられている。

「子どもも大人も好奇心いっぱいに歩き回れば、いろんなことに気がつくはず。楽しみがたくさんある町に育っていくといいですね」

建物はなだらかに上る丘の形状に合わせて設計された。屋根は、小さなものが重なっていて花びらのように見えることから「フラワールーフ」とも呼ばれる。

角野栄子

かどのえいこ 1935年東京都生まれ。童話作家。著書に『魔女の宅急便』など多数。映画『カラフルな魔女 ~角野栄子の物語が生まれる暮らし~』が2024年1月に公開予定。

〈魔法の文学館〉

設計は隈研吾。●東京都江戸川区南葛西7-3-1 なぎさ公園内 TEL 03 6661 3911。9時30分~17時30分。火曜休。一般700円、子ども(4歳〜中学生)300円など。HP(https://kikismuseum.jp)から事前予約を推奨。