March 6, 2024 | Architecture, Design | casabrutus.com
毎年、その行方に世界中の建築界から注目が集まるプリツカー賞。今年は山本理顕に決まった。安藤忠雄、SANAAらに続いて9人目の日本人受賞者となる。
今回、とくに評価されたのは山本のコミュニティに対する考え方だ。彼の建築の背景には個を尊重することが都市やコミュニティの形成には重要である、といった思考がある。「現在の建築はプライバシーを重視するあまり、社会的な関係性をないがしろにしている」と彼はいう。そうではなく、「コミュニティとは一つの空間をいかにシェアするかということだ」という発想から山本は、自由やプライバシーに関する伝統的な概念を組み替えた建築を作り出してきた。
〈東雲キャナルコートCODAN1街区〉では「地域社会圏」というコンセプトが具現化されている。「コモンテラス」と呼ばれる外部空間を、アトリエやショールームなどとして使える「f-ルーム」を持つ住戸ユニットが取り囲むという構成だ。中廊下からはガラス貼りになった玄関ごしに内部の様子が伝わる。パブリックとプライベートを完全に分離するのではなく、互いの「個」が行き来できるようなつくりになっているのだ。北京の店舗併用集合住宅〈建外SOHO〉も同じく、地域と個の関係性を考えて設計されている。
住宅だけでなく、公共建築においても同様だ。〈広島市西消防署〉では「見学テラス」から訓練の様子を見ることができる。ガラスから24時間、光が漏れて非常時以外にも地域の安全を守る。〈福生市庁舎〉ではもともと一つの大きな棟を建てる予定だったのを2つに分け、その間をなめらかに繋いで広場にした。なだらかな丘のような広場ではイベントが開催されることもあり、おおぜいの市民が集まる。〈横須賀美術館〉では海の見える大きな屋上広場が人気だ。海と反対側の観音崎公園と同じ高さになっているから、公園が海に向かってそのまま延長されているかのように感じられる。
山本の建築はヒューマンスケールのグリッドや曲線で構成されている。その外部とも内部ともつかない空間を楽しんでいるうちにいろいろな人と出会える、そんな仕掛けが評価されて今回の受賞となった。