パルグループHD井上会長、過去最高業績で花道 「後継者も育ち、絶好のタイミング」

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浮き沈みの激しいファッション業界で半世紀以上にわたって経営を舵取りし、一代で大手ファッション企業を育てたパルグループホールディングス(HD)の井上英隆会長が、今期(2024年2月期)で経営の第一線から退く。10日に大阪本社で行われた2023年3〜11月期決算の記者会見の場で、井上会長は自らの進退について語った。

退任を真剣に考えるようになったのは1年ほど前からだという。「パル(事業会社)の松尾勇社長に加え、5人のフェローが十分育ってきたし、業績も過去最高を更新し、好調を維持している。バトンタッチするには絶好のタイミングだと思った」と語った。

現在、井上会長は88歳。08年にパルグループHDの社長職を長男の井上隆太氏に引き継いでからも強力なリーダーシップを発揮し、グループの支柱として組織をけん引してきた。過去に大病を患った経験から体調管理には常に留意してきた。趣味のゴルフも楽しみながら健康を維持し、経営の前線に立っていた。

パルマップで時代の変化に対応

退任の意向を固めたのは、昨年10月に妻・英代さんを亡くしたのがきっかけだった。大学時代に知り合い、生涯のパートナーとなった同い年の英代さんは、パルの経営にも参画し、副社長管理本部長を務めた。記者会見では井上会長が「元気だった女房が次第に弱っていく姿を見て頃合いだと感じた」と言い、嗚咽をもらして涙をぬぐう場面もあった。

井上会長は1961年に父親から継いだ紳士服の仕立て屋「スコッチ洋服店」を企業化し、73年にはパルを創業。紳士服からジーンズカジュアルに進出して以来、時代の変化を捉えた多ブランド戦略を推進してきた。「チャオパニック」「ラシット」「チコ」「カスタネ」「ミスティック」「ガリャルダガランテ」「ディスコート」「コロニー2139」など50以上のブランド・業態を持つ。

「流行は12年周期で一巡する」という考えのもと、多種多様な顔ぶれのブランドポートフォリオ「パルマップ」を30年前に作った。流行や消費志向の変化で稼ぎ頭が失速しても、別のブランドが次の稼ぎ頭になれる態勢を整えた。その真価が発揮されたのがコロナ禍だった。外出自粛で服が売れない時期、プチプラ雑貨「スリーコインズ」の急成長が会社を支えた。

井上会長を半世紀以上支えてきた松尾氏

ジャスダックに上場した2001年、井上会長は既に66歳だった。当時100億円台だった売上高は、24年2月期には1842億円になる見通しだ。「こんなおじいさんが若い子のファッションなんて分かるはずがないという自己認識が基本にあった。だから、ファッションが分かる若い子を雇い、辛抱強く育てるしかない。そこから全てが始まっている」。多ブランド戦略は若手社員の抜擢と育成の場になり、多くの人材が育った。

井上会長が相談役に退いた後は、松尾勇副社長が代表権を持つ会長(CEO)に就任する予定。スコッチ洋服店時代から丸54年のつきあいになるという松尾副社長に全幅の信頼を寄せる。「彼のようなしっかり守ってくれるタイプが一番適任。会社のトップは1人の方がややこしくない」。井上会長の側で同社をつぶさに見てきた松尾副社長は「井上イズムを次の世代に継承していく役割を担う」と決意を新たにした。

一方、現職の井上隆太社長は代表権が外れる。井上会長は「今後の経営の責任者は松尾であることを明確にする。井上家は株主として社内を監視する立場になる」と説明した。

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