中小・中堅企業の生産性を向上させるために|バックオフィスの日2023 in 大阪

会期:2023年6月21日(水)
会場:梅田クリスタルホール
主催:freee株式会社

会計・人事労務・業務効率化など経営を支えるあらゆる業務の最先端が一同に会するイベント「バックオフィスの日」。昨年1月に大盛況だった東京での開催をふまえ、6月21日(水)に「バックオフィスの日2023 in 大阪」として初めての大阪での開催となった。

今回は5コマ目に行われた「中小・中堅企業の生産性を向上させるために」の内容をご紹介する。

スピーカー:皆川健多郎氏(大阪工業大学 情報科学部データサイエンス学科 教授)

製造業での取り組みで得た知見を中小・中堅企業に生かす

大阪工業大学の皆川でございます。本日はこのような貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。 「中小・中堅企業の生産性を向上させるために」ということでですね、少しお話しさせていただきたいと思います。

私は大阪工業大学の教授をしております。すぐそこの大阪市内旭区に本学のメインキャンパスがありますが、現在枚方市にあります情報科学部データサイエンス学科は2021年4月に開設されたものです。私はそこでデータサービス教育といって、様々なデータを利活用して企業の価値創造に生かしていこうという取り組みを進めております。 

情報科学部データサイエンス学科はまだできて3年目です。やっと3年生が入ってきたところで、就職活動の支援の時期になっております。また何か皆様方の会社にも色々とお世話になろうかと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

今回は「中小・中堅企業の生産性を向上させるために」というようなテーマではございますが、主に今まで製造業の方々といろいろな取り組みをしてまいりました。製造業に限らず、もはやいろいろな間接部門やサービス産業でも同様の取り組みをする必要性が出てきています。

今日は製造業の話になりがちではありますが、それらの知見をどのような中小・中堅企業に生かしていくのか、さらにはこれまで大企業じゃないとできなかったバックオフィスのシステムによる支援が手の届くようなところに来ています。これをどのように使うのかという観点で話題を提供させていただければと思います。 

人手不足が深刻化する中で生産性が求められている

本当に課題は山積みです。人手不足はますます深刻になりますし、 エネルギーコストの上昇についてもロシア・ウクライナ問題において非常に拡大をしているといった状況ではないかと思います、もはやこれまでに経験したようなことがない出来事が起きるとすれば、起きたことに対してどのように対応していくのか。やはり、変化というものが求められるのではないかと思います。

とはいえ肝心の人手がもはや増えることはなく、異次元の少子化対策なんていうことも言っていますけれど、もう人口が減っていくということは必然です。一体全体どれだけ減るのかというと、1億2000万人の人口は、およそ40年後には8000万人台。ほぼ3分の1が減るということはもう分かっているわけです。

実は65歳以上の人口はほとんど変わらずに、まさしく生産年齢人口、働き手が減っていくということなんです。この4000万人分の減少については生産性を上げて対応していかないといけないということが、課題として分かっているわけですね。

ただ一方で、65歳以上の人口というのがコンスタントに存在することを考えると、案外高齢者雇用というものを早くやってみるチャンスがあるのではないかとも言われています。中小企業白書などでも、やはり人手不足、 さらには労働時間の制約といったような意味で、このような問題が深刻化しているということが記されております。

そして、近年は初任給というものがじわり、じわりと上がり始めています。これは国の稼ぎであるGDPと実に相関が高いというデータが出ています。

これはある意味極めて当たり前のことです。しかしながら国内では物価が下がり、給料上がらないけれども、我々の豊かさは非常に向上していったという時代であったのかなというふうに思います。

現在はそういった中で、給料を上げてGDPも上げようという動きもありますが、GDPが上がらなかったらちょっとやばいことが起きそうな状況であり、まさしく生産性を上げていかないといけないという状況ではないでしょうか。

先ほどの説明の通り、もはや人手は不足し、 労働時間の管理も厳しくなっている。こういう状況下において、人手を集めよう集めようとしてもなかなか難しい。そのため形を変えて生産性をぐっと上げるという取り組みが求められています。まさしく生産性を上げることに取り組み、上げていくことができたら、前よりもっと出来高をあげることができるかもしれません。

とはいえ、中小企業は大企業に比べて1人当たりの生産性は低いということが一般的には言われています。これはある意味当然の話で、どうしてもスケールメリットが中小企業・中堅企業には効かないということで、低くなっています。そのデータも丁寧に見てみますと、中小企業の中の上位10パーセント、下位10パーセント、中央値という1番真ん中に来る値。このような3つのデータを中小・中堅・大企業と取ってみたところ、なんと中小企業の上位10パーセントは大企業の中央値を上回るようなパフォーマンスを発揮している企業があるわけですね。さらに大企業の下位10パーセントは中小企業の中央値を下回っている。規模さえでかければ、という言い方をすると下品かもしれないですが、どうも規模の大きさの問題ではないようなんですね。

実際の業務ヒアリングをするところまでは私自身もできてはいないので、これから先は私の妄想です。なんでこのような差が生まれるのかということなんですけれど、やはりこれは生産性へのこだわりではないかなと思うんです。生産性に対し、「これなんとかしたいね」と思っている人と、「もうしょうがないね」と思っている人の差なのかもしれません。 

実は世界から見てみても、日本というのは必ずしも生産性が高くないんです。国民1人当たりのGDPは、OECD加盟34カ国のうち21位という順位になっております。 それが生産性というパフォーマンスになると、さらに下がる。ここにやはり、我々が考えなければならない問題があるのではないかと思います。

さらに時系列のデータを見てみても、生産性が低いのは今に始まった話ではありません。以前から低く、そして最近だだだっと下がってきている状況なんですね。よくこういうデータをご紹介すると、「なんかこんなことを言われて非常に不機嫌だ」とかって、怒られたりすることがあるんですけど。これは決して我々の働き方が悪いということではなくて、やはり「こういったところの意識を築いてあげよう」という意味なんです。生産性は他の国々も上げてきているということなんです。順位っていうのは相対的なものですから。やはりそういった意味で、我々ももう少し考えないといけないのです。

さらには生産性において上位にある国々をベンチマークしてどういうやり方をしているのかと調べることからも、まだまだ我々はできるチャンスを持ってると捉えてみていただいてはどうでしょうか。

真のDXとは、デジタル化の目的とは?

例え生産性が低くても、人口が増えている時は良かったんですが、先ほどのデータの通りもはやそういう状況は変わってきています。 やはり昔と変わらない生産性ということでは問題がありますよね。この問題解決にIoT、さらにはDXと、今日もそういったシステム関連のテーマでございますけれど、こういうことが非常に問題解決に役立つと言われています。

DXについてはもう、今日お越しになられる皆さんはよくよくご存知かと思いますが、人々の生活をより良い方向に変化させるという形で提唱されているものです。激しい変化に対応し、デジタル技術を活用する。顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを展開する。業務そのものや組織、プロセス、企業文化、風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。こういう風に持っているんですね。 色々とDXの補助金なんかもあって、私も審査員をさせていただくこともあります。そんな中、このデジタル技術を活用することがDXだと思ってる方もおいでなんですけど、実はそうではなくて、ゴールとして様々な変革を起こすとともに、競争上の優位性ということで、他者に対して競争力を持つということが真のDXなんです。

 一昔は「IoT、IoT」と盛んに言われました。「導入したんですよ」と言われて「そうですか、効果はありましたか」と聞くと、もちろん「現場の様々な状態が見える、見えるようになった」。そんなことを言われるわけですね。だけど聞きたいことはそうではありません。「いや、そうじゃなくて、生産リードタイムは短くなったんですか」と聞くと「いいえ」。 「じゃあ、残業時間は短くなりましたか」と聞いても「いいえ」。「じゃあ在庫は減った?」と聞いても「いいえ」。それじゃあ利益は上がっていないよね、と。こういう話を案外聞くんですね。

何のためにシステムを入れているのかということを考えず、我々日本人というのはシステムを入れることが、どうも目的化してしまうようです。 そうではなくて、システムを入れて成果を上げていくということが重要ではないでしょうか。確かに「システム投資」というのはもはや、経営資源の一要素であるのかもしれません。しかし重要なのは、「管理技術」ではないでしょうか。「管理技術」というのは経営工学の用語で、「IE」というのはインダストリアルエンジニア。これらの経営資源をより有効活用して、今の人、今の設備、今の資源、そして今のキャッシュでもっともっと有効活用できないかと、こういうことを考えるものなんです。これが掛け算になってくる。

そもそも作業というのは、「価値作業」と「非価値作業」に分けられるわけですけれど、 私たちはどうもこの「価値作業」に注目をしがちです。しかし実は、やめるべきなのは「非価値作業」なんですね。「あの人、なんかあちこち行ったり来たりしてるじゃないか」「もの運んでばっかり」「なんか、手止まって考えてる」……実はそういった、本当に価値を生んでいない時間をどのように解消してあげるのか、そしてそこに価値が多いものをどのように入れていくのか、これが重要なわけですね。そのためには「頑張れ頑張れ」ではダメで、「価値作業」ができるような環境を作ってあげるということが重要なわけですね。 

生産性を上げるためにはIEが必要

そのような中で、先ほど言いました「IE」。今日はぜひ「IE」についてをみなさんにお伝えしたくここに来たわけでございますが、これはインターネットエスプローラーではございませんね、インダストリアルエンジニアです。東京に「日本IE協会」がありまして、そこではこのように定義しています。

「IEとは、 価値と無駄を健全化させ、資源を最小化することで、その価値を最大限に引き出そうとする見方、考え方であり、それを実現する技術である」という風に。

価値の顕在化とは、いわゆる「見える化」ですね。どこが働いててどこが働いてない、こういうところをまずはしっかりと見えるようにするのです。 例えばこういうことはありませんか。「なんだ、1日で100個しかできないんだったら2日かかるよね」とか、「設備1台で500なら2台いるよね」。「 定時じゃ無理だから残業はもう1人」。これらは資源を足しているんですね。

そうではなく、無駄のないところでちゃんと価値を生めるようにしてあげたら、1人でももっとできるようになります。結果的に、残業しないとできないと思っていたことが午前中で終わった。 こういうことが実は「IE」の目指してるところなんです。まさしく様々な資源制約を受ける中での「IE」の必要性が皆さんにもご理解いただけるのではないかと思います。

様々な人が「IE」や「DX」に対し、不可欠の問題があるとおっしゃっておられます。「DX」が変革のための手段でなく、目的になっている雰囲気を非常に心配しています。これは工場でもオフィスでも同じことが言えます。そんな問題を見抜き、「プロセスを改善したのちにデジタル化を行うことが大事だ」と。

✔️能力と仕事の関係

私はよく、能力と仕事の関係についてのご説明をします。 私たちはどうしても能力を上げようとするんですけど、実はそうではなく、もっと仕事をシンプルに考えてみてはいかがでしょうか。能力アップをするのではなく、今日来たばかりの人にやってもらえる仕事が1つにでも2つでも増えていくと、どうでしょう。

作業の中に価値を生む部分とはどこなんでしょうか。例えば組み立て作業でいうと、部品を組み立てるという、「知ってる瞬間」が価値になるんですよね。手を伸ばして部品を取ります。組み立てました。持ち替えて、そしてまたつける。 組み立てる以外にも、実に様々な行動をされますよね。作業のときに片手で押さえてしまうことで、片手しか働かない時間だって生まれます。このようなことが日常的にたくさん起きてるわけです。

「IE」ではこれを動作経済の原則といいまして、より動作にも経済的なやり方があるので、こういう着眼で見ましょうということなんです。先ほどの組み立て作業を改善しようとしても、いろんな改善案が出てきます。実際の演習で考えていただいたアイデアとしては、「片手で押さえちゃうと片手しか使えない。だけど、しっかりとした作業台に固定されると、両手化が実現する」というようなものがありました。 こうした結果は、最終的には時間値に現れてきます。

作業者の能力を発揮させるためには、ゆっくり作業できるようにするということも重要ですし、そうしてできる品物はやはり品質が良くなるんです。お客さんも喜びます。もちろん経営者としても嬉しいわけですよね。サプライヤーはたくさん取引してくれるし、こういう企業が地元にあると、雇用も生まれる。やはりそういった良い現場というのはまさに「三方良し」。こういうことなんですね。

動作方法の時間値

あるいは、動作方法の時間値で見るということもやっています。例えば複数回の繰り返し作業に対しては、我々はよく平均値を取ります。しかしこの平均値もよくよく見てみますと、サバ読んでいることもあるんです。実は最初はポテンシャルを持ってるのに、平均という時間設定をしてしまったために、それに合わせて作業してしまうこともある。これってもったいないですよね。 改善のためにはばらつきの大きいところを見ることが非常に重要です。

あまりばらついてないところを改善してもあんまり意味がないわけで、やはり大きくばらついているようなところを最初にできるようにしてあげる。例えばビデオなんかを撮ってビデオ分析をしてみたり、簡単なセンサーをつけてみたり、そういったようなことをして管理を進めてみる。それらが見えたら、「IE」では、ECRSの原則という着眼点で改善を試みています。

作業を一緒にできないか、入れ替えられないか。そして、簡単にできないか。非常に重要なことです。改善するためには「デジタル、デジタル」となりがちなんですが、まずはきちっと計画を立ててみる。そしてそれが計画通りに行っているか確かめる。トヨタでは生産管理板という仕組みで管理しているものです。

その結果、できていなかった場合、なんでできなかったのかというところが改善すべき問題点になるわけです。そして対策をすることによって次からはできるようになるんですね。なんでもかんでも経験などに頼るのではなくて、良い計画を立て、そして良い管理をして、そしてデータを活用できませんかと。こういうことに取り組むチャンスがやはり来てるということなんですね。 

時間を測るのが大変だよという現場では、こうしたことを提案しています。例えばGoogleフォーム。こういうのを使うと実にデータが非常に簡単に取れるんですね。さらにGoogleフォームは縦画面なので、フォームを作って、URLをQRコードにしておいて、現場にぺたっと貼っておく。終わったら、これを読み込んで、タイムスタンプを押してもらう。このようなことをやってあげると、データが集まってくるんですね。日本でも紙に書いてあるものはこういったコードにしてデータに入れておけば、あとの検索も非常に便利になります。

そうすることにより、いろんな取り組みにも利活用が可能になるんではないでしょうか。

まずはプロセス改善から

今日は大きなシステムの監視についてのお話もしましたが、まずは部門を限って改善をしてみる。プロセス改善をしっかり進めてみる。このようなことで、どんどんと改善を進めてみてはいかがでしょうか。

我々が目指しているのは、能力をはっきり発揮できる現場作りです。 私も日常的にあちこちの現場を訪ねています。週に1回は行きたいなということで、1か月で5、6もの現場に行きます。それが12か月で考えると、60〜70ぐらいの現場に行くわけですね。それがもう10年〜20年とすると、もう1000回ぐらい現場に行っていることになる。実にどこの現場行ってもみんな一生懸命頑張っているんです。

しかしですね、ちゃんとしたレイアウトがなかったり、計画が甘かったり、様々なことが作業者の負荷になってしまう。そして作業者の能力を阻害している。そうだとすると、やはり もっともっと作業環境を良くし、計画もブラッシュアップする必要があります。作業の記録もすぐにスマホでも録れます。そういったものを活用して良いマニュアルを作ってみる。えとにかく無駄なことをさせない、価値作業に集中させる。そうすることでデータの能力を発揮させる。 「頑張れ頑張れ」ではなくて、マネジメントを変えてそういう状況に持っていくといくことが重要なのではないかと思っております。

働く人の能力を引き出せる現場づくりを

「There is always a better way」という言葉をいつも締めくくりに使わせていただいております。いつも最善な方法がありますよ、と、こういうことなんです。冒頭にもちょっと申しましたように、世の中が劇的に変化をしていく中で、「前はどうしていたのか」と言ったって、時代が違いますよね。そんな中で過去から解決策を探すよりは、どちらかというとベストを追求していくんです。やってみて悪ければ元に戻して、さらにいい方法を考えて。こうした取り組みが重要になっているのではないかと思っております。 

良いやり方というのは働く人の能力を引き出すわけですけれど、 そういった現場作りというのは、今、いずれの会社にも共通してるわけですよね。そういったことを今、地域で一緒に考えませんかというようなことで、コミュニティを作ったり、取り組みをしたりしております。

デジタル技術の活用においても、デジタル自体のハードルが低くなって、投資額も低くなって、 さらに、無料のものもいろんなものが出てきました。まさしく中小・中堅企業でも活用が可能となりました。そのため「大企業しかできない」と言われていたようなことが中小企業でもできるようになってきているという状況ではないかと思います。

さて、「じゃあ、システムさえ入れればうまくいくのか」というと、そうじゃないですよね。やはり、現場の問題ありきです。 問題解決プロセスの改善をしっかりして、小さくデジタル化をする。「まずはこの部署が一番困っているんだから、ここをちゃんとやろうよ」とかですね。困っているところからやっていくと、「いや、うちも困ってる」「うちも困ってる」なんて言われるんですけれど、絶対にどこにでも困ってるところがあるわけです。ここに関してはいかがでしょうか。 改善を止めないわけです。どんどん、どんどん改善を進めてください。その延長線上に、様々な手段としてのデジタル化があります。

デジタル技術を1つの選択肢として入れ、それを活用していくということが重要なのではないかなというふうに思っております。 取ったデータをしっかり活用して、 えー、現場の困り事を解消する。そういった現場作りが促進されることを願っております。

今日の話を聞いて「IE」はちょっと面白そうやなと思われた方がおいででしたら、『IEの教科書』という本をおすすめします。それでは、私の方では以上とさせていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。